2002年(平成14年)7月10日号

No.185

銀座一丁目新聞

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映画批評(特別版)

−監督ウダヤン・プラサット「天使にさよなら」−

 映画「天使にさよなら」(イギリス作品・映写時間86分)を見た(2002年7月9日〜・東京・シネスイッチ銀座)。
サッカーよりも天使を夢見る少年ジミー(ショーン・ランドレス)と失業中の父親(イアン・グレン)の葛藤を描きながらガンで死ぬ父親から自立していく11歳の少年の物語である。小学生の子供を持つ親たちの必見の映画である。子供の心が少しは理解できよう。子供の不登校の訳も分かるかもしれない。根っこは親も子供も同じであると言うことを知って安心するかもしれない。
 何故、天使にあこがれるのか、子供にはちゃんと理由がある。生き甲斐としているおじいちゃん(デイヴィット・ブラッドリー)の鳩を手当たり次第、おりから全部放つのか、それなりの訳がある。学校でサッカーのユニフォームを着ないのはどうしてか、理由も質問しないでトイレの掃除の罰を科す先生。映画同様、現実の世界でもちっとも「大人はわかってくれない」。子供は身体一杯で訴えている。
 造船の街、ニューキャスル・ユナイテッドのユニフォームを買ってきた父親にジミーは素直に「有り難う」がいえない。ジミーが欲しいのは天使の羽のある衣装だ。そのギャップに父親はいらだつ。ジミーが天使を夢見るのは、5歳の時の記憶である。父親がたくましい腕で空へ放り投げてくれたのだ。誰でも記憶にあろう。
「高い高い・・・」の他愛もない親のあやし方を。わたしも子供の時してもらった。それでも天使になろうとは思わなかった。ジミーは心優しい少年である。天使入門試験でも天使ガブリエル(ビリー・コノリー)に「何故天使になりたいのか」と聞かれて
「人を助けるのがカッコイイから」と答えている。実際に川に落ちたボーイスカウトの少年を助ける。
 肺ガンで入院した父親の病気を治す計画をママ(ロージー・ロウエル)にうち明けると、その話を信用しないママはいきなりジミーを殴る。「早く大人になって」よいって抱きしめながら泣く。このような母親は少なくなったのではないか。子供は殴られて成長する。
 病院での最後のクライマックスがいい。父親は覚えていたのだ。5歳の時ジミーを空高く舞上げたことをしっかり記憶していた。それを知って、ジミーは感極まってベッドの父親に抱きつくく。気がつけば父親は息を引き取っていった。それは親の深い愛を知った瞬間でもあるが、ジミーの自立も意味する。
 「リトル・ダンサー」の脚本家、リー・ホールのはじめてのラジオドラマとしてBBCで放送されたそうだが、映画でも見応えした。それにしても観客が少ないのが残念である。

(神田 志子馬)

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