2005年(平成17年)11月10日号

No.305

銀座一丁目新聞

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山と私

(24)
国分 リン

−お花いっぱいの飯豊山−

 私は会津坂下生まれで、晴れた日には飯豊山を眺め、小学校の校歌にも歌われていた。飯豊山の案内がスポニチから届いたとたん何をおいても登ろうとすぐ申し込みをした。
7年前の8月初めに縦走した時の大日岳をバックにお花畑の写真を壁に掛けている。
 7月15日夜行バスで出発、バスの中で目が覚めるとたたきつけるような激しい雨が降っていた。ここは山形の西南端の小国町で新潟県との県境の豪雪地帯に位置している。窓越しに見ると飯豊山荘(400m)があり、数組が準備をしていた。バスの中で朝食を済ませ、デポする荷物を置いた。この激しい雨ではカメラを持参しても撮れないだろうと置いていくことを決断した。今思えば残念でならない。
 いよいよ出発、「この雨では石転び沢は危険なので梶川尾根を登ります。」と尾形先生の声。石転び沢を登りたかったKさんはしきりに残念がった。でも安全登山の為には先生方の選択はやむをえないと思う。飯豊山荘から5分ほどで湯ノ沢の橋には鈴木先生の知人が登山客皆に声をかけていた。この橋を渡りきった道路の右側に梶川尾根コースの登山口があった。いきなりの急登が始まり、登っても登っても延々と続く。汗が滴り落ちる。雨も小降りになり、カンカン照りの灼熱地獄よりいいよと言い聞かせながら、ひたすらもくもくとゆっくりゆっくり登る。今日の登りは標高差にして約1,600mの長丁場。それに飯豊山の小屋は自炊なのだ。でも鈴木先生が食糧を前々日に担ぎ上げてくださった。お陰でいつもの山行と同じなので、前の飯豊を登ったときよりも私はとても軽い。鈴木先生にダンニャバード(感謝)。でも気合を入れて登らないと負けそうになる。湯沢峰(1,021m)を通過し、梅花皮(かいらぎ)大滝が展望できる滝見場で休憩、鈴木先生が「晴れていたらここから石転び沢の大雪渓の上部が見えますよ。」残念見えないが、下の雪渓を登っている姿は見えた。さらに一歩一歩のぼり、五郎清水で休憩。また登りだすと、雪の重みで独特な姿のダケカンバが目立ち始め、再び急な尾根を登ると梶川峰(1,692m)の三角点へ着いた。ピンク色が目に入った。ヒメサユリだ。咲いている。ウアー咲いている。大きな声で叫んだ。「ここまでくればもう長い急登はないですよ。」先生の声で、ひとまずほっとした。なだらかな稜線歩きが始まり、素晴らしいお花畑の連続に疲れもどこへやら、ニッコーキスゲの独特のオレンジが一面に咲き、チングルマの白い花畑、ヒメサユリの花道、大好きなホソバヒナウスユキソウの可憐な白い花達がここかしこに群れ咲く様はとても素晴らしい。
 小降りだった雨がまた強くなり、尾根なのでまともに風雨を受けるので、とにかく急ぎ足で門内岳(1,887m)を過ぎ、花に見惚れながらギルダ原を通りすぎ、連峰随一の鋭峰北股岳(2,025m)の山頂へ辿り着いたのは15時、残念ながら雨と霧で何もみえない。急いで梅花皮小屋へ到着したのは15時30分であった。皆ズブ濡れ状態で、雨具も帽子もザックカバーも水が滴り落ちた。梅花皮小屋(1,860m)は小国町町営の小屋で新しく建て直され、トイレも水洗もあり、きれいだ。小屋の管理人は鈴木先生の知り合いで、とてもお世話になった。先生が荷揚げしてくれた一人2本のビールと胡瓜と大きなトマトとカレーとご飯パックとお漬物が準備され、持参のおつまみで豪華な夕食になった。またまた鈴木先生に感謝。寝袋に入ったらすぐ寝入ってしまった。
 7月17日朝食を済ませ、美味しいコーヒーをいただき、午前6時、うす曇の中出発。まだ見晴らしは良くないが、烏帽子岳(2,018m)を過ぎアップダウンを繰り返すうちに大きな雪渓が現れた。鈴木先生曰く「この雪が曲者で道を間違え彷徨っている人たちがいるんですよー。」霧の中目印もなくむやみに歩く怖さが伝わる。雪のスプーンカット状態での歩き方を習った。何度も雪渓渡りをした。鈴木先生は「飯豊は私の庭ですよ。」そんな風にいえる山があったら、と思うと羨ましい。
 ビューポイントだらけの広い稜線歩き、天狗の原など草原に咲くヒメサユリのピンク、ニッコーキスゲのオレンジの群落が風に揺れて美しい。少しずつ霧が上がり広大な飯豊の山並みのつながりが目に飛び込んできた。まだたくさんの雪を抱いている。御西岳(2,012m)の広い頂を歩き、小さなピークを二つ超え登りきったところに一等三角点と小さな石祠のある飯豊本山(飯豊山)(2,105m)へとうとう到着とても眺めがいい。無事に登れたと思ったら涙があふれた。一日半以上もかけた深い頂である。
 ほんの少し歩いただけで石垣に囲まれた飯豊山神社へ着いた。飯豊本山は双耳峰で最高点と三角点は北峰にあり飯豊山神社と本山小屋は南峰(2,102m)にある。以外に人は少なく健康と山への感謝を拝した。
 すっかり天気も回復して景色を見渡して歩く。一ノ王子御前坂をハイマツと花崗岩の道を下る。御秘所と呼ばれる、切り立った岩尾根はそれほど長くなく前回は怖い思い出の場所が、剣岳の岩場を経験した身にとって安心感があった。御秘所から姥権現、草履塚の因縁話を尾形先生の訛り入り話を楽しく聞きながら切合小屋へ日の高い14時30分に到着。この一日は天園を歩いた幸せな思いで一杯である。
 7月18日なんと素晴らしい天気だ。皆の顔も晴れ晴れとしている。地蔵岳へ向かう道は大きな雪渓が二箇所もあり、鈴木先生は走って、いったりきたり、雪に慣れていない人の面倒を見ている。周囲はたくさんのお花畑である。気分のよい道をどんどん下りながら、ヒメサユリの花達と会話を楽しむ。御坪に着いた。ダケカンバの木々が綺麗だ。御坪は名前も場所も気に入った。「去年は大雨の中この尾根を登り、こんな素晴らしい景色なんて想像も出来なかった。」とつぶやいた人がいた。山はお天気次第とはよく言われるが、お天気に感謝した。急勾配を慎重に下りたところはじめじめした湿地帯のようで杉の大木があり、
御田の標識があった。ザンゲ坂と呼ばれている所からはブナの原生林の中、気分良く歩き、まるで森の妖精のように歩く。11時に大日杉小屋へ到着。今回の山行は無事終わった。中津川の白川荘で温泉につかりながら、飯豊山は素晴らしい名山だった。私もこの山が大好きだから自分の庭だと言い切れるくらい機会あるごとに登りたい思いが、溢れた。

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