2005年(平成17年)11月10日号

No.305

銀座一丁目新聞

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花ある風景(219)

並木 徹

「あしたくる風」 風、土、水、太陽の物語
 

 劇団「ふるさときゃらばん」はこのところ環境問題に力を入れている。主催・東京都水道局のミュージカル「あしたくる風」(10月31日・日本青年館)も地球にやさしい水つくりの話である。原始の世界から産業革命、現代と物語は展開する。人類が始めて手にしたエネルギーは火であった。火の発見は火山の爆発がきかっけである。そのお蔭で他の動物の上に君臨する。その歓びの模様が舞台一杯に歌と踊りで表現される。歴史書によれば、日本の遺跡から縄文ハンバーグや縄文クッキーが見つかっている。縄文時代の日本人の食事は文化的であったようだ。産業革命に移る(1760年代)。舞台はアメリカ・ウエストバージニア州のビッグベントトンネル現場付近。蒸気ドリルとハンマーのどちらが早いかで勝負して勝ったジョンヘンリーが登場する。所詮ハンマーは電気ドリルの敵ではなく、ジョンヘンリーは死ぬ。みんなから好かれていたハンマー男を女も男も惜別の歌を歌う。トランペットの音色が哀愁を呼ぶ。新しい時代の到来を告げる歌でもある。19世紀終りにはアメリカ一国の鉄道網が全ヨーロッパを凌駕する。何人もの鉄道王が誕生した。はじめての大陸横断鉄道が完成したのは1869年である。ガソリンエンジン、電気が登場、人間の欲望は果てしなく都市を、工場を、自動車をつぎつぎに作り出し公害を撒き散らす。その対策が追いつかず、今世界は地球温暖化の危機に見舞われている。グリーンランドや南極の氷が溶け出して、海面が高くなり、低い土地や島が海に沈む。氷が解けて、平均海面は100年間で10〜25cm上昇した。このまま温暖化が進めば、2100年までに海面は9〜88cm上昇すると予測されている。南の国ではすでに沈み始めたところがある。
 赤城山(1828メートル)が登場する。カラツ風とともに生きた人々を人形劇のように描く。見ていて楽しい。この山のある群馬県の新田郡笠懸村岩宿遺跡から3万年前物と見られる石器が見つかっている。縄文時代より古い。世の言う「かかあ天下」はこのカラッ風に長い年月かかって育てられたのであろう。やがて舞台は現代へ。町長(向井正俊)は小学校の校舎の改築を公約に掲げて当選するが財政難で予算が僅かに50万円しかつかずに悩んでいるところへ教頭(税田幸子)と大工・トメ(真壁宗英)が木造のまま改築すれば50万円でやりますと言ってくる。天井も高いし、階段の手すりも木であれば子供たちが自由に遊べてよいという。早速実行する。何もない町だが新しい風を吹かせるために風車を建設する。風車は未来へ向って動き出すエネルギーである。町を愛する人々が明日に向って歌う。都の浄水場で太陽光発電設備をつく電気を作っているのを知った。ポンプで水を送るのに電気がいるからである。すでに朝霞浄水場など4浄水場に設備されている。舞台では「水は何処から来るんだろう」が歌われる。水道管を辿れば、給水塔ーダムー山、森ー海へ着く。地球温暖化の危機は直ぐ目の前まで迫っている。ニューオリンズを襲ったハリケーンが何よりの証拠だ。そんな思いを抱かせるミュージカルであった。

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