競馬徒然草(63)
―「祝福」暗示の牝馬の快挙―
2005年という年は、さまざまの大きな出来事が起きる年であるようだ。もっとも、暗い出来事ばかりではなく、祝福すべきおめでたいこともあった。スポーツの分野でも、数々の記録更新、快挙があった。プロ野球ではアメリカのホワイトソックスのワールドシリーズ優勝がそうだし、日本では千葉マリーンズ(ロッテ)の日本シリーズ優勝もそうだった。監督が外人というのも初めてだが、しかも監督の名がバレンタインというのも愉快だった。思いもかけず、大きなプレゼントを貰ったような気分になったファンも多かったようだ。
競馬の世界では、ディープインパクトの3冠達成がある。無敗で臨んだ菊花賞をも制して、21年ぶりの無敗の3冠馬に輝いた。圧倒的な強い馬の出現で、競馬への世人の関心を高めた。不況の時代にもかかわらず、関連グッズまで売り上げを増大し、経済効果も大きかった。
天皇賞(秋)へ天皇・皇后両陛下をお迎えしたのも、画期的なことだった。天皇賞の長い歴史の中でも、初めてのことである。昨年、JRA創立60周年を機にお迎えすることになっていたが、新潟大地震の発生により実現しなかった。
その天皇賞は、豪華メンバー18頭が出走。GTタイトルを持つ馬が8頭で、1レースとしては史上最多。メンバーの質の高さは、獲得賞金にも表われていた。10億円馬タップダンスシチー(牡8歳)、9億円馬ゼンノロブロイ(牡5歳)など18頭の賞金合計は68億円を超える。
藤沢和雄厩舎はゼンノロブロイ(牝4歳)、キングストレイル(牡3歳)の3頭を出走。同厩舎は秋の天皇賞に02年、03年をシンボリクリスエスで連覇し、昨年もゼンノロブロイで制して3連覇。96年にはバブルガムフェローで優勝しており、今年は4連覇、5勝目を狙っていた。
こうして迎えた天皇賞は、14番人気の牝馬ヘヴンリーロマンスが優勝。しかも、5着までに牝馬が4頭も占めるという、牝馬大活躍という結果だった。しかも、ヘヴンリーロマンスという優勝馬の名前は、皇室におめでたいことのあった今年と考え合わせると、意義深いものがある。まさに「祝福」のレースだった。レース前、このことに思い巡らせていた人は、見事に馬券を当てていた。競馬が単なるギャンブルではないことを示唆している。
レース後、優勝した松永騎手はヘルメットを脱ぎ、ヘヴンリーロマンスの馬上から貴賓席へ深々と頭を下げていた。こんな光景は、初めて見るものだった。馬も緊張しているように見えた。陛下は立ち上がって、拍手をされていた。こうして終わった天皇賞には、「祝福」の光が満ちていた。 (
新倉 弘人) |