競馬徒然草(56)
―出来過ぎた話―
「テルテルボウズ」という名の馬がいた。馬主がなぜ、このような名を付けたのかは分からない。よほど雨の日が嫌いなのかも知れない。この馬が、雨の日に出走してきた。大降りでなく小雨というのが、この馬の場合、微妙なところだった。だが、雨は雨である。ところが、雨が止んでしまった。「テルテルボウズ」の祈りが天に通じたのだろうか。そのレースは、なんと、その「テルテルボウズ」が鮮やかに勝ってしまった。嘘のようだが、本当の話である。
やはり変わった名前の馬の話である。「カレガスキ」という名の牝馬がいる。面白い名前の牝馬ばかり追いかけている男が、この馬の馬券(単勝)を買った。スピードがあり、直線に入っても果敢に先頭に立って逃げたので、「勝てる」と見られた。ところが、ゴール前で、追い込んできた馬に交わされ、2着に敗れた。
男は口惜しがった。それを見ていた友人が、こう言った。「あの牝馬は、勝った馬(牡馬)に勝ちを譲ったのさ」。「なぜなら、あの牡馬を好きだったからさ。つまり、カレガスキなのさ」と。この見方は1つの推理の域を出るものではない。だが、言われてみると、そうかも知れない、と妙に納得させるものがあった。事実がどうであるかは分からない。果たして実際はどうだったのだろうか。
もっとも、話としては、出来過ぎている感がある。
なお、その後、「カレガスキ」は、なかなか出走してこない。どうしているのか、消息は分からない。その馬を追いかけている男は、「出走してきたら、もう1度狙って見たい。今度は勝つだろう」と期待しているのだが、果たしてどうだろうか。
シエイクスピアではないが、それこそ「真夏の夜の夢」である。 (
新倉 弘人) |