2005年(平成17年)8月20日号

No.297

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花ある風景(211)

並木 徹

「1ダースの童話」第一号出版される
 

 毎日新聞で一緒に仕事をした仲間、山本祐司君(ルパン文芸主宰)が童話集「1ダースの童話」第1号を7月に出版した。山本君の前向きな意欲と気力にはほとほと感心する。社会部長時代、脳梗塞で倒れ、手足が麻痺して、医者から「もう文章を書くのは無理でしょう」といわれたほどであった。闘病の結果奥さんの支えながら歩くこともでき、文章も書けるようにもなった。彼が主宰する「ルパン文芸」には32人の会員がおり、全員がプロの作家を目指している。このうち17人が身体障害者で車椅子が必要な人が9人もいる。会員は北海道、大阪、九州、舟橋などに在住しているため「ルパンテキスト」を創刊した。このテキストがなかなか面白い。物語を作るには「逆転」の発想を取り入れればよいという。たとえば▲「私は特捜検察が嫌いであった」▲「○○○の事件が起きた」▲「私は特捜検察が好きになった」この文章のうち「○○○事件が起きた」ことがポイントで、その事件はその人の人生観をかえるほどの衝撃を持っているのが通例と解説する。私が社会部長のとき山本君は裁判所のキャップであった。ロッキード疑獄では大活躍をしてくれた。裁判所クラブのメンバーは橋爪順一、勝又啓ニ郎(東京データネットワーク社長)、野村修右、高尾義彦(毎日新聞監査役)、観堂義憲(毎日新聞東京本社取締役編集局長)、藤元節であった。昭和51年7月27日、田中角栄首相が逮捕された日の朝刊一面トップに田中逮捕を暗示する記事を書いたのは高尾君であった。それは山本君の指示によるものであった。事件の流れと取材の分析の結果を見事に読みきった勝利であった。
 第一号には山本君の「めそめそお母さん」をはじめ12の童話が掲載されている。「ひとりぽっち」(内山早智子)は7歳の女の子の孤独な話だ。育てられたおばあさんとも死に別れ「チコひとりぽっち」と叫ぶのは心ゆさぶられる。「ドラの妖怪島」(小野寿弥)は野良ネコのノラとドラ、メスの飼い猫、ジュリの妖怪島探検記である。島の四角い顔した猫族はやさしそうだったが実はドラたちを高く外国に売ろうと企む悪い猫族であったというどんで返しがある。ひと話ひと話皆面白かった。水準は高いものがある。添えられた山本君の手紙には「私たちはいよいよ文学の総攻撃をかけました。児童文学から火蓋を切りました。そのあとには小説、ノンフィクションが控えています」と決意が示されていた。心から頑張って初心を貫くことを祈ってやまない。

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