1998年(平成10年)4月1日(旬刊)

No.35

銀座一丁目新聞

 

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茶説

「官僚鎖国」の退職金

佐々木 叶

 昔、舟一隻を一杯と呼んでいた。幕末の浦賀沖に、アメリカのペリー提督が率いる軍艦四隻が姿を見せたとき、江戸の庶民は「たったの四杯で夜も眠れず」と、幕府の狼狽(ろうばい)ぶりをなじったという。

 ペリー艦隊は、徳川三百年の鎖国の夢を破ったが、いま、大蔵省は、汚職と法外な退職金で、官僚百三十年の鎖国の夢を破りつつある。歴史にコピーはない、とはいえ、庶民のド胆を抜く異変は、あとを断たない。

 大蔵省は、「官庁の中の官庁」といわれるそうだが、最近の不詳事を見るにつけ、「さすがは大蔵省」と威嘆せざるをえない。つまり、大蔵省は、諸官庁の“さきがけ”として、「官僚鎖国」の腐敗ぶりを、率先垂範してみせたからだ。

 相つぐ接待汚職は、エリート大蔵官僚の品性下劣の証(あかし)であり、八千万円にものぼる高級官僚の退職金も、無恥独善の誉(ほまれ)というべきか。

 昭和三十年代、毎日新聞が「官僚ニッポン」という連載企画で新聞協会賞をうけた。官僚の権力支配を社会部感覚で暴いたものだが、いまでは古典に近くなった。それは、官僚社会の腐蝕度が、当時の予測を越え、急速に進んだからである。華の大蔵省の汚職続発やお手盛り退職金が、その見本といっていい。

 退職金一つ取っても、昭和三、四十年代の高級官僚で、せいぜい二千万円から三千万円程度だった。当時、警視庁キャリア組の総務長は「三十数年勤めて二千万円。古手の警察署長のほうが高い」とこぼし、認証官の検事長は「検事四十年で三千万円、税金を引かれたら半分だよ」と嘆いていた。

 天下り先のない警察や検察庁の高級官僚にくらべて、大蔵、通産、建設、運輸などの各省は、天下り先の渡り鳥で、つぎつぎと退職金稼ぎをやっている。その先端を切る大蔵官僚が、最高八千万円だから、多くの庶民が「黒船再来」かとド胆を抜かれるのは当然である。

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