安全地帯(31)
−落ち葉焚き−
−真木 健策−
近ごろ、落ち葉焚きが見られなくなった。童謡「たきび」は懐かしい。「たきびだ/たきびだ/おちばたき/あたろうか/あたろうか/おちばたき・・・」
作詞・巽聖歌(本名 野村七蔵 1905−1973)曲・渡辺茂(今年の8月2日、90歳でなくなった)。この歌は昭和16年12月9日、NHKラジオではじめて放送された。その詩碑が日野市豊田の旭丘中央公園の一隅にある。「たきび」は今なお歌い継がれている。
西吹ばひがしにたまる落ち葉かな 蕪村
朝ごこちみだすものなく落葉焚く 及川貞
落ち葉は山野ではそのまま肥料になる。都市では焼却炉で処分する。所沢市ではビニール袋に詰めて、希望者に肥料として無料で配布している。
厄介な話もある。仙台―山形を結ぶ仙山線沿線の渓谷の紅葉は見ごたえがあるが、落ち葉の頃となると、木の葉が線路上にたまり、電車がスリップして動けなくなる。このために先頭車両の車輪の部分にほうきを取り付けて、走りながら線路上の木の葉を取り除く。原始的な落ち葉のラッセル車である。
焚き火で楽しいのはイモを焼いて食べる事である。焚き火の後の灰にイモをつっこんでおくと、ほかほかのイモが出来上がる。それが何といえずおいしいのである。子どもの頃のそのような経験の有無は、大人になってどう出るのであろうか。いささか心配である。
作詞家の巽聖歌は昭和の初期、中野区高田四丁目に住んでおり、散歩の折、ある家の庭でたきびをしているのを見て詩情が沸いてきたといわれている。その頃このあたりは武蔵野の面影が十分あったはずである。詩情がこんこんと泉のように沸きあがってくる土壌があった。歌はたくまざる自然が生み出す。環境破壊が進む今の世には良い童謡が生まれにくくなってきているかもしれない。 |