2002年(平成14年)2月20日号

No.171

銀座一丁目新聞

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競馬徒然草(2)

−競馬場への散策− 

 前回、トキノミノルとシンザンのことを書いたら、早速問い合わせがあった。そこで、まず前回触れられなかったことにつぃて、若干記したい。
 シンザンの故郷は北海道で、浦河の谷川牧場に銅像が建てられている。北海道旅行の機会があれば、牧場めぐりのコースの一つに加えてみるのもいいだろう。なお、シンザンの命日は7月13日。俳句の好きな人なら、その日を「シンザン忌」として、歳時記に加えるのもおもしろいかもしれない。
 トキノミノルのほうは、銅像が東京競馬場に建てられている。正門を入ってスタンドへ向かう手前、右手のパドックの近くにあるから、ご存じの方も多いだろう。馬主だった永田雅一氏(元大映社長、故人)が建てたもので、その名も刻まれている。氏は愛馬の死を悼んで、墓も建てている。墓は、競馬場の正門前の道路を渡った一画にある。そこにはほかの愛馬の墓もあり、故人の愛馬心のほどを偲ばせる。なお、トキノミノルの命日は、シンザンより1ヵ月早い6月20日である。
 ついでにいえば、この墓の並びには道路に面して馬頭観音が祀られており、馬の好物とされるニンジンが供えられている。近所の人や競馬場へくる人が供えるのだが、供物の絶えることがない。都会に住む人には馬頭観音など見る機会もないだろう。馬が輸送や農耕に使われていた時代には、街道や農村の路傍に馬頭観音が祀られていたものである。たとえば木曾馬の産地として知られる木曾の開田村には、馬頭観音が多く残っている。人々の馬への関わり方は異なるが、東京のこの競馬場のある土地にも馬頭観音は祀られ、人々の素朴な信仰心がひそかに息づいているのを知る。
 面している道路の中央分離帯には、欅の並木が天に向かって枝を伸ばし、その向こう側は銀杏並木の歩道になっている。歩道は競馬場の敷地の塀に沿っているのだが、スタンドや馬場から離れているため、競馬の開催日でも閑静な散策路というにふさわしい。西側の起点に建つ「競馬場通り」の標識は、シックなデザイン。歩道には紙屑ひとつ落ちていない。歩道といえばインターブロッキングというのをご存じだろうか。雨水を吸い込ませるようにしたタイルがそれで、踏みしめる感触も快い。散策を愉しむ人のために、すべての面で行き届いている。
 右側につづく塀の途切れたところに通用門があり、その内側に、日本式庭園のあることも書き添えよう。
 桜の季節はまだ遠いが、梅は1月初めから咲いている。10万人を超える大観衆を呑み込むスタンドからほど近いところに、それとはまた別の世界のあることを知るだろう。ときには、こころ豊かに散策を愉しむこともお勧めしたい。

(宇曾裕三)

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