2002年(平成14年)2月20日号

No.171

銀座一丁目新聞

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お耳を拝借(40)

-インフルエンザ

芹澤 かずこ

 

 インフルエンザに罹って高熱を発した。なんの兆候もないまま突然40度近い熱に見舞われたのは腎盂炎以来30年ぶりのこと。真っ先に考えたことは、あるかなしかの貴重な脳みそが冒されるのではないかという不安。腎盂炎の時はまだ若くて体力もあった上に、平日の昼間だったので、すぐ病院に飛んで行き、でもこの時は即入院となった。
 今回は間の悪いことに連休最後の夜のこと。普段めったに高い熱など出したことがないので解熱剤の買い置きもなく、とにかく頭を冷やして朝を迎えることに専念しようと、氷枕を探し、何かの時にと用意してあった子供用の熱冷まシートを額に貼り付け、ペットポトルを枕もとに置いて水分補給に心がけ、ホット敷布で寝具を暖かくしてひたすら体を横たえて過ごした。少しでも眠れれば朝が早く訪れるのに、頭の重みも加わって一向に眠れず、時計の針も遅々として進まない。
 長い夜が明けてペットポトル1本分の水と、ひたすら丸まって耐えたお陰で汗をたくさんかいて、朝には37度台に熱が下がっていた。開院を待ちかねて病院へ出向くと
 「解熱剤も使わずに熱が下がったのなら普通の風邪とみていいでしょう、でも今日はおとなしくしているように」と年若い先生。只の風邪かなーという疑問符が頭に2つ3つ浮かんだけれど、相手は医学博士。今までにも先生のご託宣で間違いはなかったし。
 薬を飲むために食欲がなくても少しく胃袋を満たして、またひたすら布団に潜り込む。再び上がってきた熱も薬を飲むと少し下がりはするものの、また徐々に上がってきて、とうとう夜中に40度に逆戻り。またしても氷枕と熱冷まシートとペットボトルにお出まし願い、辛い一夜が始まった。呑気そうな学者肌の先生が恨めしい。やはり疑問符はぶつけるべきであった。それと暮に予防接種をしなかったことが大いに悔やまれた。
 3日分の薬が出ているのに、またやって来た患者に先生は訝しげ。
 「薬は2、3日かかって徐々に効くようになっているんですよ」そんな説明にも今度は引き下がるつもりなし。別に効を急いでいるわけではないが、いつもの風邪とは思えない。2夜も続けて高熱が出るなんて普通ではない、と食い下がる。
 「それではインフルエンザの検査をしてみましょうか」
 へえ、そんな検査があるのなら始めからしてくれればいいのに。この学者先生、注射や余計な検査で余分なお金を取ろうなんて阿漕(あこぎ)なところが全然ない。
 「ちょっと痛いかもしれませんが・・・」
 12センチくらいの長さの綿棒状のものを、やおら右の鼻に差し入れて奥で3回ぐりぐりと廻す。思いっきりクシャミが出る。次は左。またクシャミが出る。半端なクシャミではない。10分間待たされて、リトマス試験紙みたいなものを見せられる。青い線と赤い線が出ている。
 「インフルエンザですね。すぐ薬を取り替えましょう、5日分と頓服も入れておきますから38.5度以上の熱が下がらない場合は服用してください」
 そら見たことか。やはり自分の体は自分が一番知っている。こうして2日目にしてようやく必要な薬を手に入れて熱とは縁が切れた。しかし頭の方は一向にすっきりしない。
 頭の芯がズキズキするのと、まるで民話の「鉢かつぎ姫」みたいに重いものを被っているように頭が重い。人の頭の比重は体重の13%とか8分の1とか、またはスイカと同じぐらい5キロとも6キロとも言われているけれど、元気な時には頭の重みなど特に感じたことも考えたこともない。しかし今回、寝ていたり頭を椅子の背にもたせていると楽だということは、その重みが首や肩にかなりの負担をかけているということがよく分った。
 「今回のインフルエンザは何型だったのかしら・・・」
 とつぶやいた私に、牧内社長曰く。
 「世田谷1号。症状は普段軽い脳みそが重く感じること」



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