1999年(平成11年)5月1、10日合併号

No.73

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“針の穴から世界をのぞく(19)”

 ユージン・リッジウッド

NGOは奮戦する

 [ニューヨーク発]NATOによるユーゴ空爆が始まって既に5週間。イギリス国防省はユーゴ軍の活動が目立って鈍ってきたと戦況を語る中、NATOの空爆はこれまでの石油貯蔵精製施設などの戦略拠点の破壊から、首都ベオグラード中心部の政治中枢施設の破壊へといわば心臓部の攻撃に重点が移ってきた。アメリカは攻撃用ヘリコプター・アパッチの投入の一方で3万3千人の予備役の召集も始めるなど、コソボ解放準備も視野に入ってきた。アルバニアやマケドニアに流出した難民は既に60万人を超える。

 絶望、悲嘆、傷心、呆然。心理的と物理的とを問わずあらゆる困窮の中にある難民のために、NGO(非政府機関)と呼ばれる世界中の民間救援組織もまた昼夜を分かたず奮戦している。主だったものだけで60を超える。これらの組織は、各国に本部や支部を持つ母体が救援資金の募金や物資を調達する一方で、小人数の連絡調整員あるいは数百人の活動家をアルバニアやマケドニアへ派遣して現地救援活動を行っている。

 難民が発生すると、たちまち必要となるのはテント、飲料水、食糧、緊急医薬品、そして汚物処理を含めた衛生環境設備である。2,3日の文字通りの生死を分ける緊急事態を乗り切った難民たちが一息つくと、精神的後遺症対策や就学期児童の教育、常設医療活動などが必要になる。

 アルバニアやマケドニアの民間救援組織は、難民救済の中心機関である国連難民高等弁務官事務所と協力してそれぞれの組織の特徴と経験を生かした半ば専門化した活動を展開する。

 今コソボの救援に携わるアメリカの民間救援組織だけで50を数える。コソボ救援連絡会議のようなものを作って、それぞれの活動領域と活動状況に関する情報を交換し合う。インターネットに一括して載せられた活動状況報告は適宜更新され、どの団体がどのような活動をしているかが分かる。バチカンはあたかも水と食糧だけあれば、難民救済が可能なような見解を出したが、このNGO連絡会議の情報を見ると、人間社会にはあらゆる分野の支援活動が必要であることが分かる。

 ユニークな例を挙げよう。イスラム・アフリカ救援機関(イスラミック・アフリカ・リリーフ・エージェンシー)はエイド・アル・アドハという春のイスラム教徒の祝祭日にはアルバニア現地で1万3千ドル相当の羊と牛を調達して、その肉を難民キャンプに入ったばかりの人たちに提供した。敬虔なイスラム教徒が命からがら逃れてきて、そこで宗教的祝祭日の儀式とお祝いを贈られたのである。

 人権のための医師団(フィジシャンズ・フォア・ヒューマンライツ)は9人の医師を派遣して戦争犯罪と国際人権法違反がなかったかどうかの面接調査を進めている。レイプや拷問といった医師としての専門的知識でのみ判断出来る被害の実態を調査しているのである。

 米国ユニセフ国内委員会は、避難中に親と別れ離れになった幼児の保護者探しに大きな力を注いでいる。難民脱出が始まった最初の三日間で150人の子供が同じキャンプあるいは別なキャンプにいる親と再会出来た。救援活動家たちはポラロイド・カメラを使って、子を探す親、親を探す子の写真を撮ってキャンプを歩く。どんなに飢えていても家族安全の情報は最大の贈り物である。しかし何万何千の人々が無秩序に収容されたキャンプの家族探しは容易なことではない。自分で行動できる少年期の子供が親を探してキャンプのテントからテントをのぞいて回っているのも日常的光景という。

 日本でも年末にはおなじみの救世軍は現地の教会組織と連携して、毛布、水、食糧をいち早くキャンプに持ち込んだ。このほか国際赤十字をはじめ国境なき医師団、オクスファム、ケアーというような国際的に著名な実績を持つ救援組織が大規模な活動を展開しているのは言うまでもない。またこれらの多くの組織は町や村を追われたアルバニア系コソボ住民だけでなく、既に百万を越すというベオグラードから避難を続けるセルビア人たちにも救いの手を延べている。人道活動は敵味方の区別を超えた普遍性を何よりも大事にする。人道活動が正当性と強さを保つ秘訣はそこにある。

 難民高等弁務官事務所の他、世界保健機関、世界食糧計画、ユニセフ、国連人口基金などの国連諸機関も民間救援組織もインターネット上にホームページを持ち、活動紹介とともに救援募金活動を紹介している。日本にあるさまざまな組織もインターネットで募金活動をしている。

 国際問題に関わること、国際貢献をすることは決してマスコミに取り上げられるような華やかな活動をすることではない。あなたも例えば日本語で見られる国連難民高等弁務官東京事務所や日赤などのコソボ救援活動をホームページでのぞいてみてはどうか。ささやかだが貴重な国際貢献の窓口があなたの意志と行動を待っているのが分かる。

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