2005年(平成17年)12月10日号

No.308

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安全地帯(129)

信濃 太郎

 室内樂の世界に楽しむ

 同期生、霜田昭治君と一緒に「安田弦楽四重奏団と大下祐子」の演奏会にいった(12月1日・すみだトリフォニー小ホール)。ベートーベン・ピアノ三重奏曲・第七番・変ロ長調・作品97 「大公」が聞きごたえがあった。オーストリアのルードルフ大公に捧げられた曲。大公は16歳のときからベートーベンに師事し身分、年齢の差を越えて友情を持ちつづけた。頑固で怒りっぽく人付き合いの悪いベートーベンにしては珍しい。第ニ楽章がいい。スケルツォ・アレグロ。ヴァイオリン(安田明子)の優雅な旋律、チェロ(安田謙一郎)の生真面目で重厚な響き、ピアノ(大下祐子)の柔らかな音が交差する。大下さんのピアノを聞くのは三度目だが、タッチが優しく心地よく胸に響いた。トリオの妙がよく表現されていた。商社のニューヨーク駐在員をしたことのある霜田君はクラシックに詳しい。プログラムの最初の曲目はハイドンのピアノ三重奏曲32番イ長調。第3樂章 アレグロがよかった。暗い曲かと思っていたが明るく楽しく聞けたという。長く世話になった貴族の若き未亡人に捧げた曲である。私も少し哀調の帯びた調べかと思って2楽章アンダンテの旋律を期待していたのだがそうでもなかった。もともとハイドンはユーモアに富んだ人でシンフォニーにつけたタイトルが面白い。「朝」 「昼」 「晩(あらし)」「哲学者」 「校長先生」「オクスフォード」「軍隊」「時計」。「パパ」という愛称を持つ所以である。
 終わってJRの錦糸町駅前でコーヒーを飲む。10月22日から29日にかけて同期生の荒木盛雄君と世界遺産の四川省九賽溝・黄龍を旅行したという。プロの腕前を持つ霜田君は絶景をたくさんカメラに収めた。何れその作品を見る機会があるだろう。そういえば荒木君からメールで「中国旅情の句」がきた。
  幽玄と美の粋挙り秋の湖
  水澄むや紺碧の海山の影
  四千米の峠に立てリ雪だるま
  冬紅葉背にみづうみや紺碧に
  茶の花や劉備孔明祀る堂(武侯祠)
  霧深し秦代の堰今になお
 なかなかよい季語がなくて苦労したという。七・五・七の調べも捨て難い。

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