2005年(平成17年)12月10日号

No.308

銀座一丁目新聞

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(25)

「旭山動物園余話」

−宮崎 徹−

  久し振りに旭川に用事が出来て、出掛けて行った。今年は雪の到来がいつもよりも遅いようで、ようやく12月上旬に入って真冬日があったりしているようである。まだ根雪も積もらないかわり、晴天が続いて、大雪連峰と十勝岳の連山とが、つながってくっきりと見える冬入りだった。36万人の都市の背景に見える此の自然の風致は矢張り旭川ならではのものだといつも感動を覚える。
 今年旭川を国内で有名にした旭山動物園を余暇を見つけて行って見た。此の動物園は昭和42年の開園である。当時の市長は昭和38年に登場した若い五十嵐革新市長だった。幼い子供達のよろこぶ動物園を創ることが彼の公約だった。旭山はそれ迄は桜の名所と、始まったばかりの民間放送局の送信アンテナが目立つだけの場所だったが、市長に取っては新しく市に合併した地域住民へのお土産として、動物園だけでなく子供の喜ぶ遊戯施設も備えた遊園地にして、青年市長の行動力を示したのだった。
 それまで旭川の子供達は、札幌の円山公園の動物園で象やライオンを見るだけで、旭川では興行師が公園を利用して移動動物園を持って来た程度のことだったのである。
 夏休みに東京から帰って来た我が家の子供達を一度、旭山に連れて行ったことがあるが、上野の動物園や後楽園の遊園地と比べて見てしまうので私の見物はそれっきりになってしまっていた。その後数年経った頃、劇団四季の巡演で知り合った俳優の浜畑さんから、旭山動物園で白熊の子供が生まれたので観に行くという話を聞いた。彼は動物好きなのである。白熊はナイーヴな獣で人の出入りする処では交尾しないが、旭山動物園は冬は休むので、赤ちゃん熊を見られるのだと話してくれた。当時の旭山動物園の冬の休みは、動物達には長期有給休暇かも知れないが、長期閉園する動物園の方は経営が大変だ。そういう収支面の苦労も有り、また時にはキタキツネによるエコノキクスという伝染病の心配も有ったりして、動物園の継続の是非を市議会で議論したこともあったいう。北海道では箱物行政といって公共施設は、建設に恩恵を受ける業者からは歓迎されるが、其の維持運営は困難だと言われている。この意味では創業の功は易く守成は難しいという中国の諺に似ている。創業した市長も中央政界に既に転出していってしまった。
 ただ、友人達の話を聞いても、私の個人的見方でも、市の動物園に関わる人達は、本当に動物好きのサムライが多かった。他の市職員は勤務先の移動が多いが、動物園の仕事一筋の彼等は、此の経営の不振をどうするかに苦心しながら、協議を重ね努力を続けたのだった。
 今や東京の大型書店にも、旭山動物園物語とか写真集とかが、何冊も並んで注目を浴びている。それだけ旭山の動物園は人気が高くなっているのである。TVにも何度も登場し紹介されている。今冬は、御婚約の頃の清子内親王が、動物園にお出でになって皇帝ペンギン達の行進をご覧になっている写真が、ご成婚へのお祝いと共に、旭川市民の感動を呼んでいる。積雪期のペンギンの行進は、今年から2回に増えるという。小菅園長以下全員の苦労が報われたのである。
 今度観に行った時も前号にも書いたアライグマが居るかを探した。アライグマは問題の多い動物である。TVの「あらいぐまラスカル」のお陰で、愛玩用の動物として流行の時期も長かったが、飼って成長すると洗い熊より荒い熊となって、外来動物のワースト・ワンだとする学者も居る程である。指先が起用だから簡単な鍵など外されてしまう。そんな風なので扱いに困って棄てられた結果、野生動物となり、あちこちで先住の狐や狸などが追われたと云う。北海道では数年前に、千歳市の付近では同様の理由で野生化した数頭のアライグマによる畑荒らしの被害が大きかった。また知床半島に侵入すると、木登りも上手いので鳥獣の被害が出、ザリガニ等の生態系が崩れると心配する人も多い。
 動物園では、どう扱っていると探すと、小屋の柵の前に「老衰の為死亡」という「喪中案内」のハガキが張ってあって中は空だった。別に説明があって、アライグマの獰猛振りを外来魚のブラックバスに例を取って説明し、ユーモラスな表現で注意を促していた。なかなか上手いものだった。これからも動物園の職員の一人一人が、見識を持って扱ってくれることだろう。手に負えなくなったアライグマが知床半島の世界遺産の自然を荒らしたりしないように願っている。旭山動物園の園長以下のいろいろな企画により、他の動物園では見られないものが見られるようになってから、人気が爆発的に上がり、旭川に全国から動物園を見に来る人が大幅に増えたのは何といっても嬉しい限りである。
 観光資源の乏しいと嘆かれることの多かった旭川は、此の貴重な資源を大切にして、本来の山紫水明の大自然の資源と共に、大雪山観光を発展させて貰いたいものだ。

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