2005年(平成17年)11月1日号

No.304

銀座一丁目新聞

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お耳を拝借(145)

「ギターの好きなカラス!?」

芹澤 かずこ

  昔、中野に住んでいた頃、隣家の奥さんがピアノを習っていた。始めのうちは毎日熱心にお稽古に励んでいたが、だんだんと間遠になり、とうとう週一回、先生がやって来る日だけになった。その日の午前中にピアノの音が聞こえてくると「ああ、今日はレッスン日なのね」とニヤリとしたのを憶えている。
 でも、今は笑えない。ギターを習い出してやはり最初のうちは毎日熱心にさらっていたが、だんだんと金曜のお稽古日の午前中に指ならしをして、あとは土曜か日曜の昼間に習ってきたところを何回かさらってみるだけ。
 その日も、指ならしにドレミの音階を繰り返し、今までに習った曲を一回ずつさらい、仕上げにかかっている『月の砂漠』を何回も繰り返し、譜面を見るだけでなるべく手元を見ないで弾いていると、近くでカラスの鳴く声が聞こえた。余りにも近い距離なのでベランダのカーテン越しに外を見ると庭のフェンスに口太カラスがとまっていて、しきりに首を立てに振りながらまるでドレミの音階のように「ガ、ガ、ガ、ガ、ガ、ガ、ガ、ガ」と鳴いていた。電線や木の上で「カーカー」と鳴いているのはよく見る光景だが、小刻みに首を振って鳴くのは初めて見た。何処かにメスがいて求愛の動作かも知れないと見渡してみたが、その一羽きり。え?まさか、こちらも老いたるとはいえ『メス』には違いないが、カラスのプロポーズだけはご遠慮申し上げたい。
 まあ冗談はさておき、この話を事務所の若い人にしたが白昼夢でしょうと信じてもらえなかった。
  例え白昼夢だと言われようと、私の拙いレッスンに耳を傾け、唱和してくれたカラスがいるなんて、そう思っただけで楽しいではありませんか!



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