2005年(平成17年)6月10日号

No.290

銀座一丁目新聞

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安全地帯(112)

信濃 太郎

 親の言葉は子供に大きな影響を与える

 米長邦雄さんが新しく日本将棋連盟の会長になった。米長さんはユニークな方である。20数年前の話である。小学校1年生の息子が国語、算数、音楽、体育などすべてに「オール1」をとってきた時、「よくやった。すごい。全部同じものでそろえるというのはなかなかできることではない」といった。するとショックで寝込んでいた奥さんと息子さんがたちまち元気を取り戻した。その後息子さんは順調に成長されたという。親父の一言でぐれなかった。普通の親はこのような言葉を吐けない。
 フイリピンのルパング島で30年ぶりに救出された小野田寛郎さん(昭和49年3月10日)は子供のころ、ガキ大将で親をしばしば困らせた。ある時、ひどく折檻する母親に「この世に生まれてこなきゃ良かった」と口答えをした。すると母親は「あなたは生まれる時、人のため、世のためになる立派な人になるといったのよ」寛郎さん「そんなこと覚えていない」母親「当たり前でしょう。あなたは私がどのようにしてオムツを替え、乳を飲ましたか覚えてないでしょう」寛郎さん「・・・」
その母親は30年ぶりに帰国した寛郎さんに「よくぞ無事に立派に帰ってきた」といって出迎えた。小野田さんは青少年のために自然塾を開き、ブラジルで牧場を経営して社会に尽くしている。
 振り返って二人の子供を持つ私はどうかといえば、忸怩たるものがある。あえて言えば二人に対して「勉強しろ」とは一度も言わなかった。一浪した二人に「どんな本でもよいから一年間100冊の本を読め。本代は出してやる」といっただけである。平凡に過ごしているから良しとしなければなるまい。子供が万一のときに備えて親は引き出しにその時に応じた珠玉のような言葉をたくさんあるほうがよいようである。

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