競馬徒然草(49)
―「不運」という名のミステリー―
6月5日の安田記念(東京、芝1600)は、波乱に終わった。1着が7番人気(アサクサデンエン)、2着が10番人気(スイープトウショウ)、3着が5番人気(サイレントウィットネス)だから、馬連でさえ万馬券(1万3990円)。3連単は40万円を超える高配当(46万5840円)となった。1番人気(テレグノシス)は5着、2番人気(ダイワメジャー)は8着。しかも3番人気ダンスインザムードは18頭立ての18着、それも大差。この馬本来の能力からすれば、到底考えられない結果だ。この惨敗はどうしたことか。
レースを振り返ってみる。はじめはスムーズなレース運びをし、直線に入ったときは好位置に上がり、末脚を伸ばせば先行馬を捉えることができると見えた。そのときアクシデントが起きた。内側と外側の馬にはさまれ、「進路妨害を受けた」と見えた。その瞬間、ずるずると後退。馬群から消えた。この一瞬の出来事は、「故障発生!」と思わせた。だが、故障ではなかった。「審議」の青ランプはついたが、「進路妨害」は認められなかった。最後方まで退がる結果になったのに、なぜ進路妨害にはならないのか。審議、裁定の在り方にも、納得し難いものが残った。
ダンスインザムードは本来、能力の高い馬である。デビュー以来3戦3勝で臨んだ桜花賞に優勝し、4勝無敗の桜花賞馬となったほどの馬である。牡馬の強豪とのレースでも、天皇賞(秋)でゼンノロブロイの2着。マイルCでもデュランダルの2着。1600でも2000でも、その能力の高さを発揮してきた。血統的にも、高く評価されてきた馬である。父サンデーサイレンス、母ダンシングキイ。兄に96年の菊花賞馬ダンスインザダーク、姉に95年のオークス馬ダンスパートナーを持つ。「良血中の良血」といわれる理由も十分に頷ける。ダンスインザムードはそれほどの馬である。
それが大差の最下位。何らかのアクシデントがあったと思われるが、一体それは何だったのか。不明のままである。それには眼を向けず、人は単に「不運」というだろう。だが、「不運」という言葉の裏側には、不可解なものが残る。それは1つのミステリーだ。いってみれば、「不運という名のミステリー」だ。いずれにしても、「真の敗因」が明らかになるのはもう少し先のことだろう。いや、明らかにはならないかもしれない。今年の安田記念は、一編のミステリーを読むのに似ている。
ともかく1頭の馬が突然の悲運に見舞われた。その馬がダンスインザムードという名の馬であったこと。記憶にとどめるべきことのように思われる。 (
新倉 弘人) |