2005年(平成17年)5月20日号

No.288

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茶説

一体、国策捜査とは何か

牧念人 悠々

 元外務省情報局分析一課分析官佐藤優著「国家の罠」(新潮社・2刷2005年4月)を読む。初めて『国策捜査』の言葉を知った。佐藤優さんの「背任」と「偽計業務妨害」による逮捕(2002年5月14日背任容疑、7月3日偽計業務妨害容疑)から鈴木宗男代議士の逮捕(同年6月19日)への展開をみると、わかるような気がする。国策の言葉にうさんくさい権力を感じる。それにしても佐藤さんの逮捕は強引すぎる。「背任罪」と「疑計業務妨害罪」が成立するのか疑問に思う。容疑は2000年1月にゴロデッキー・テルアビブ大学教授夫妻を日本に招待したこと。同氏はロシア問題の国際的権威である。これは国際的学術交流であった。さらに4月、テルアビブ大学主催国際学会『東と西の間のロシア」に末次一郎安全保障問題研究会代表、袴田茂樹青山学院大学教授など7名の学者と外務省から「ロシア情報収集・分析チーム」のメンバー6名を派遣した。この費用は外務省関連の国際機関、支援委員会から3300万円出されている。この金を引き出した事が違法で、背任罪を構成するという。この事業に主導的役割を果たした佐藤さんが刑事責任を追及されれた。どちらの支出にも外務省の決済がある。訪日招待は欧亜局長と条約局長。派遣はそれに加えて外務次官の決裁がある。この事業はイスラエルがロシアと密接な関係が有り、ロシア情報収集の一環として行われた。それまで誰もイスラエルが持つロシア情報に気がつかなかった。事業には十分な国益がある。それを佐藤さんの背後に鈴木宗男代議士がおり、外務省関係者は鈴木代議士に恫喝されたり、人事上の不利益を蒙るのが怖いので仕方なく決済書にサインしたのだという論理のもとに検察側はことを進めたようである。ロシア情報収集と3300万円の損害と比較考量した場合どちらに軍配を上げるか。
 第二の容疑は2000年3月に行われた国後島におけるディーゼル発電機供与事業の入札で、三井物産に対して違法な便宜を図ったり、前島陽ロシア支援室課長補佐や三井物産の連中といろいろな悪巧み(偽計)をして支援委員会の業務を妨害したというのである。しかも佐藤さんが前島補佐に「三井物産に落札させるのが鈴木宗男大臣の意向だから、入札予定価格の基礎になる積算価格を三井物産に教えてやれという違法な指示をした」というおまけまでついていると本書で明らかにしている。最後まで佐藤さんは否認、あくまでも無罪を主張した。そのため拘留は512日間に及んだ。保釈も鈴木さんが2003年8月29日であるのに佐藤さんはその年の10月8日である。拘留日数も鈴木さんより75日も多い。獄中の生活態度が立派である。聖書、「太平記」、ヘーゲルの「精神現象学」を繰り返し読み、読んだ本は220冊、思索ノートは62冊になる。恐らく起訴後、保釈を求めず、拘留延長を願ったのは日本の裁判史上佐藤さん唯一人であろう。佐藤さんは結論する。『2000年までに是が非でも北方領土問題を解決して日露平和条約を締結するという国家目標に真摯取り組んだ故に私たちは「国家の罠」にとらわれてしまったのだ』。「道徳を説く人を見習うな。実行する人を見習え」という。「検事調書を朗読する人に耳を貸すな。牢獄で勉強する人の言を聞け」と言いたくなる程この本は迫力がある。

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