2005年(平成17年)5月20日号

No.288

銀座一丁目新聞

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競馬徒然草(47)

―日常の中の意外性― 

  人は毎日の生活の中で、「今日1日が何事もなくすんでくれればいい」と願うもののようだ。「無事平穏に」というわけだ。全く何が起きるか分からない最近のことだから、この願いは理解できる。だが、一方で、それでは「飽き足らない」とする気持ちを持つ人も少なくない。「毎日が同じような日々の繰り返しではつまらない」というわけだ。人間の願望には、まことに捉え難いものがある。
 いささか固苦しい話から始めたが、それには訳がある。1人の知人から久しぶりに受け取ったメールがきっかけになっている。その知人はしばらく病気で寝ていたのだが、快方に向かってからは、完全快癒と無事平穏な生活を願っていた。だが、1つだけ困ったのは、
いっこうに気力が湧いてこないことだった、という。病気がよくなり、一応「元気」といえそうな状態になったとしても、「気力」が湧いてこないことにはどうしようもない、というのだ。
 そんなとき、友人が見舞いがてら遊びに来た。その友人は競馬ファンだから、話題がたまたま翌日の天皇賞(春)のことになった。友人はアンカツ(安藤勝己騎手)のファンだったから、アンカツ騎乗のスズカマンボの狙いを推奨した。全く人気はなかったが、「荒れるから、面白い狙いになるはず」という。「アンカツなら面白そうだ」と思えた。そこで知人は、友人に頼んでアンカツからの流し馬券を買ってもらった。病気になってからは、テレビの競馬中継すら見る気になれずに
いたのに、不思議な変化だった。「ともかく、気力が湧いてきたのが嬉しかった」という。ひょんなことで、日常の中に意外性を求めた結果だったといえる。人間はときとして、意識的に意外性を求めることも必要であるようだ。その意外性は、そのときの自分自身の中の何かを変えるきっかけにもなり得るようだ。
 参考までに記せば、その天皇賞(春)は、アンカツ騎乗のスズカマンボ(13番人気)が勝ち、2着にも14番人気のビッグゴールドが入り、馬連も万馬券という大波乱になった。バンバンザイである。ちなみに3連単の配当は193万9420円であった。

( 新倉 弘人)

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