競馬徒然草(37)
―新年・水の話―
「若水(わかみず)」というのがある。1年の邪気を払うため、元日の朝早く汲む水。古代には、立春の朝に宮中で天皇に奉ったという。後には、元日の朝に初めて汲む水のこととなった。この水を正月の食事、茶の湯、洗面に使った。井戸もなかった昔には、川の水を汲んだようだが、それだけ川の水もきれいだったということだろう。現代では、とても考えられないことだ。最近は、「水はいのちの源」といわれるが、科学の未発達な昔に、すでにそのような考え方が、信仰心のようにあったようだ。「若水」の意味にも考えさせられるものがある。
最近は、川はもちろん湖沼や池などの水が汚れ、深刻な環境問題になっている。水質汚染に関する事例は多い。その一方、水質改善の事例は少ないように思われる。ところが最近、ふとしたことがきっかけで、水質改善の事例を知った。場所は、府中の東京競馬場。パドック裏手の日本式庭園。そこに池がある。その池の水が、以前よりもきれいになった。理由のあることを知って、なるほどと合点がいった。
主役は、急速活性水質浄化液。アオコ(水の華)などの異常発生を防止し、水の澄明さが増した。また、健全な緑藻類を発生させ、水中生物が棲みやすくなり、鯉などの活性化や成長を促す。鯉が病気で死ぬこともなくなった。つまり、水が本来持つ力が復活し、不純物質などの自然還元を早める、ということのようだ。
研究開発をしたのは、東京の「ニチゾー」という企業。50年近く水質改善の研究に取り組んできたというから、この分野におけるパイオニア的存在だ。急速活性水質浄化液の用途は、池、湖沼、河川、海水の浄化など幅広い。いや、単に水に止まらない。この原理の応用により、自然の生物態系の復活でも成果を挙げつつある。その1つが植物系の活性化で、野菜などの栽培でも成果を挙げている。植物性活性触媒液というものだ。珍しい試みと思われるのは、北海道の牧場での例。これを堆肥に散布すると馬糞の発酵が早く、それが牧草の成育を早める。それだけでなく、馬がその牧草を特に好んで食べ、しかも元気になるという。
人間が健康で元気であるためには、食べ物が大事なことは誰でも知っている。だが、牧場の馬が食べる牧草のことなると、一般の人は知らない。どんな牧草でも同じようなもの、と考えている人も多い。だが、今やそんな時代ではなくなったようだ。池の鯉もまた、水質を変えることで活性化し、病気で死ぬのもいなくなる。
新しい年の初めに、大いに活性化を図りたいと願う人も少なくないだろう。正月らしい話題として、お届けする。 (
新倉 弘人) |