花ある風景(177)
並木 徹
濱崎加代子ののオペラィック・コンサート
関西で活躍しているオペラ歌手、濱崎加代子さんの「オペラティック・コンサート」を聞く(8月27日・東京四谷区民ホール)。神戸に住む同期生の濱崎富雄君の娘さんの東京での初公演というので同期生、霜田昭治君に勧められて足を運んだ。第二部、舞台のための歌曲集「彼女とー彼らと」GALA(ソプラノ・濱崎加代子、ピアノ・小梶由美子) は新鮮で意欲的で面白かった。第一部、加藤直・林光ソング集―ギョウザの夢―(歌・濱崎加代子・ピアノ・林光)は第二部への導入部と感じられた。
第二部はガラをめぐる三人の男、ポール・エリュアール(フランスの詩人)、マックス・エルンスト(ドイツ生まれの画家、フランスヘ帰化)サルバドール・ダリ(スペインの画家)の物語と音楽である。濱崎の「ひとりオペラ」であった。多情多感なガラは1982年(昭和52年)6月10日、88歳でポルトリガの自宅でなくなる。ダリは最後の瞬間までつきそったという。ガラはロシアのカザンの生まれ。18歳の時パリに出る。
M1「笑う煙」。ガラは「私は煙だ」という。男にとって捉えどころがないということであろうか。濱崎の声は響く。魅惑的である。M3「ガラという祝祭の神話」。詩人エリュアールと出会う。10代で恋人となり、結婚する。エリュアールは自由の為に戦った抵抗詩人として知られる。ガラにとって男としては不満であったようである。結婚生活は亀裂する。それでも彼は愛の詩を綴る。『ぼくはきみと別れた。だが、愛はまだぼくの前を歩いていた』。M4「愛と絶望」からM7「変化」。画家エルンストの登場である。夫への飽きたらない思いがガラをエルンストヘ走らしたともいえるが、夫もそれを認めていたふしがある。M8「男友達」M9「人は休みなく愛している」。「多情多感は人間の本性よ」と女友達がのたもうたが、濱崎はのびのびと人間賛歌を歌う。表情がいい。
M10「愛の記憶」からM13「悲しみよ今日は 悲しみよさようなら」。スペインの超現実派の画家ダリの出現である。シュールレアリスムの旗手ダリは作品だけでなく全生活が超現実的であった。二人が出会うのは1929年(昭和4年)の夏で、ガラは夫のエリュアールとその友人たちと一緒にスペインのカダケスに滞在中のダリを訪ねたときである。ダリはたちまちガラの虜になった。ダリはガラの背中に魅せられてしまう。ダリ25歳、ガラ35歳である。ガラにささえられ
たダリの仕事は円熟味を増し、その多彩な才能は開花した。ダリは「私が画家でいられるのはお前のおかげなのだ」と告白する。「私の生涯における星輝く原野の巡礼」と言わしめる。濱崎がつけた口髭は、ガラがその仕事をしっかり支えてというダリの象徴。ソプラノが冴え渡る。
M14「?」ダリの作品に「レダ・アトミカ」(1949年作)がある。白鳥と女性の裸身を描き、足元に聖書を配した図柄である。広島、長崎で炸裂した原爆が触発したイメージである。核兵器の出現とその破壊力はダリに強い衝撃を与えたといわれる。演出・台詞・作詞の加藤直さんが作曲の林光とともに「男と女 聖と悪 国家と個人等と諸諸の『境界』から世界を見よう」というならそのはざ間で、その波打ち際で、私たちはしかとこの世界の未来を見つめよう。濱崎の心に響いた歌声を記憶の底に留めながら帰途についた。この夜、同期生のよしみで出席したのは霜田と夫人恒子、河部康男、荒木盛雄、川井孝輔、渡辺瑞正、星野利勝夫人信子の諸君と諸嬢であった。 |