2004年(平成16年)7月10日号

No.257

銀座一丁目新聞

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競馬徒然草(20)

―「敵を知り、己を知る」こと― 

  何事も運や己の力だけでは、勝利を得られない。このことを示したのが、アメロカンオークス(GT、芝2000メートル)におけるダンスインザムード(牝3、藤澤和)の敗戦だった。舞台は、7月4日の米ハリウッドパーク競馬場。ダンスインザムードは、高い能力を評価されて1番人気。だが、勝負どころで誤算を生じ、勝ちを逃がした。3歳牝馬としての米GT初勝利も、武豊騎手の海外100勝もお預けになった。
 このレースは、ただ「惜しい敗戦」だけでは済まされない教訓を示唆している。4コーナーを3番手の好位置で回ったまではよかった。だが、デザーモ騎手のティッカーテープ(牝3、米国)が、一瞬の隙を突いて先に抜け出した。デザーモ騎手の側からいえば、これはレース前からの作戦だった。ワンテンポ早い仕掛けで、逃げ馬の後ろにいるダンスインザムードの行き場をふさいだのだ。直線の短いコース(302メートル)だけに、勝負の明暗を分けた。
 このあたりをダンスインザムードの側から見てみる。スタートから好位置つけれるだけのスピードのある馬である。ただレースがスローに流れたため、馬が行きたがって、折り合いを欠く面があった。それが一瞬のうちに先を越された。日本のオークスでもそうであったように、直線で一瞬内にもたれる面を見せながらも、武豊に矯正されると力強い伸びで追い込んだ。だが、直線は僅かに302メートル。伸びは13頭中一番際立っていたが、1馬身差2着まで詰め寄るのが精一杯だった。
 それにしても、賞賛されるのは、4コーナー過ぎのデザーモ騎手の絶妙的な作戦だ。レース後、敗れた陣営の藤澤和雄調教師は、「ケント(デザーモ)に意地悪されたな。しまいはよく伸びているが、外に出られず厳しいパターンにはまった」と、口惜しさを語っている。勝ち馬(ティッカーテープ)はすぐ外の7枠からのスタートで、内隣の日本からの挑戦者を常にマークしていた。デザーモ騎手は短期免許でしばしば来日し、日本の競馬事情はもちろん、ダンスインザムードに関する情報も知り得ている。そこで、必勝の作戦を練ったのだ。それにつけても思い起こすのは、戦いの場に臨む場合の名言・格言。その第1が「敵を知り、己を知る」である。勝負事の哲学でもある。
 レース後、デザーモ騎手は、こう打ち明けている。「ダンスインザムードがほかの馬に囲まれていたので、できる限り内に押し込めるように乗った」と。世界各地を飛び回る名騎手は、勝負の哲学とともに戦略を心得ている。

( 新倉 弘人)

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