2004年(平成16年)7月10日号

No.257

銀座一丁目新聞

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花ある風景(171)

並木 徹

「博士の愛した数式」を読んで

 小川洋子さんの「博士の愛した数式」(新潮社)を読む。きっかけは毎日新聞の論説委員、青野由利さんがコラム(6月16日)で紹介していたからである。面白かった。数学が苦手である。だが興味がある。最近も小宮山博仁さんの「大人に役立つ算数」(文春新書)と取り組んだ。
 小川さんの本にはこんな個所が出てくる。
 「ハンカチ2枚とくつ下2足を380円で買いました。同じハンカチ2枚とくつ下5足を買うと710円でした。ハンカチ1枚とくつ下1足の値段はそれぞれいくらでしょう」
 売買算の問題が小説に出てくるの意表外である。オイラーの公式も出てくる。その数式が美しいという。すごい感性である。小説の材料はどこでも落ちているということか。さらに「1 から10 までの自然数を全部たすといくらになるか」の問題も出ている。単に1から10までを足してゆくのではなくて、別の算出法を考える。博士は言う。「問題にはリズムがあるからね。音楽と同じだよ。口に出してそのリズムに乗っかれば問題の全体を眺めることもできるし、落とし穴が隠れていそうな怪しい場所の見当もつくようになる」算数も国語や音楽を勉強しなくてはいけないのを教えている。
 5が1から9までの平均である。とすると、5×9+10=55となる。小宮山さんの本では1+10=11、2+9=11、3+8=11、4+7=11、5+6=11 11×5=55の算出法が紹介されてある。
 主人公の博士は稀にみる数学者で阪神タイガースフアンある。1975年の交通事故で頭をうち、それまでのことは良く覚えているが、記憶は80分しか持たず、記憶はどんどん消えてゆく。その面倒を見る家政婦とその息子が登場、献身的に博士を看護する。阪神と広島戦の野球場へつれだしたり、息子の誕生パ^テーを開いたり博士を励ましたりする。
誠に涙ぐましい。この3人は友愛数字で結ばれ、完全数なのである。

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