2003年(平成15年)12月1日号

No.235

銀座一丁目新聞

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茶説

武士道を見直せ

牧念人 悠々

 「武士道」は1945年(昭和20年)8月の敗戦とともに否定され、足蹴にされてきた。新渡戸稲造の「武士道」は1900年(明治33年)1月発刊されるや、大きな反響を起こし、アメリカの大統領セオドア・ルーズベルトは徹夜でこれを読み、感激して100冊購入、友人、知人に配ったという。「武士道」は歴代大統領の座右の書になっているといわれる。敗戦から58年、「武士道」出版から103年、日米同時に12月6日からエドワーズ・ズオィック監督の映画「ラスト・サムライ」が上映される。なぜアメリカ映画なのか、それは絶えず戦争をしているからであろう。死にさらされるれと人間は勇気、名誉、責任などを嫌でも考えさせられる。
 憲法9条を大事に守り、戦後日本では「戦死者一人も出していない」といっている国ではこのような映画を作る発想は生まれてこない。
 時代は1876年から77年である。舞台は日本。廃藩置県が1871年7月、前の年にその詔勅が出た。新渡戸稲造は「この詔勅が武士道の弔鐘を報ずる信号であった」と表現する。武士道は刀をその力と勇気の表徴としたのに、5年後に廃刀令が出る(1876年)。日本も次第に近代化の道を進み始めようとしているころである。主人公は南北戦争(1861年〜65年)の英雄ネイサン・オールグレン大尉(トム・クルーズ)。日本軍に西洋式の大砲の扱い方を教えるために来日する。大尉は政府軍に反旗を翻した侍、勝本盛次(渡辺謙)と固い絆を結ぶ。そのため、政府軍と戦う羽目になる。圧倒的な火力の前に健闘空しく両人とも倒れる。最後に勝本は武士の誇りを失わずに死にたいと大尉に介錯を頼む。無事果てる。大尉は傷つきながらも生き長らえる。こんなところにも日本人とアメリカ人の生死の考えの違いがでている。勝本の死をもって武士は最後となったといいたいのかもしれない。
 新渡戸稲造は「武士道」の第17章「武士道の将来」の中で「武士道は一つの倫理の掟としては消ゆるかも知れない、しかしその力は地上より滅びないであろう。その武勇および文徳の教訓は体系としては壊れるかもしれない。しかしその光明その栄光はこれらの廃址を越えて長く活くるであろう」と述べている。
吉田松蔭は歌った。「かくすればかくなる知りながらやむにやまれぬ大和魂」武士道の義、誇り、恥を忘れた経営者、識者のなんと多くなったことか。

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