元首相が逮捕された戦後最大の疑獄事件・ロッキード事件がドラマとして12月29日(月曜日)午後9時から午後11時24分まで日本テレビで放映される。この大型ドラマは当時取材にあたった毎日新聞社会部の記者たちの懸命な活躍ぶりを中心に事件の「闇」を解き明かしていくという。
当時社会部長として陣頭指揮した筆者としては嬉しいかぎりである。このドラマには原作はないというが、取材記者たちが実名で出てくるところを見ると「毎日新聞ロッキード取材全行動」(講談社・昭和52年2月発刊)を参考にしたのはまず間違いあるまい。ロ事件での毎日新聞の報道は群をぬいていた。読者からの評判も良かった。とりわけ、共同通信出身で創価大学教授であった新井直之さんがあちこちで毎日新聞報道を講演や雑誌でほめてくれた。その著書「マスコミ日誌」(みき書房)でも「取材全行動」の本を紹介した。たとえば、鬼俊良ロッキード日本支社支配人は神奈川県湘南中学校から東亞同文書院を卒業したというだけで経歴も住所もわかっていない。それを湘南中の同期生から実母の住所を割り出し、その実母から鬼さんの住所を教わる。夜討ち朝駆けして片言隻語の取材をし、写真をとる。こういうことの積み重ねがロ事件取材なのである。このようなしんどい取材の手の内がわかるのは新井さんが新聞記者であったからであろう。
またこうも書く。「毎日は他社より劣る人員でロ事件の取材にあたらねばならなかった。田中逮捕の前日ある社は18箇所を22人で張り込んだのに毎日は4箇所4人に過ぎなかった。社会部長は旧軍隊の作戦要務令を引用して戦闘のコツは必勝を期すべき地点に兵力を配置すればよいと書いているが、これは負け惜しみというものであって、ほんとうは毎日の経営不振から取材費を節約しなければならず、地方支局から人手を動員できなかったのであろう。そうは書けない部長の辛さだ」 良く人の気持ちがわかっている。その新井さんは「毎日新聞ロッキード取材全行動」をウォーターゲート事件を追いつづけた「ワシントンポスト」の若い記者が書いた「大統領の陰謀」の日本版であると激賞した。新井さんは平成11年5月、71歳で死去された。
(柳 路夫) |