2003年(平成15年)10月20日号

No.231

銀座一丁目新聞

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茶説

意見具申を尊重せよ

牧念人 悠々

 前駐レバノン特命全権大使天木直人さんの書いた「さらば外務省−私は小泉首相と売国官僚を許さないー(講談社刊平成15年10月8日第一刷発行)を読んだ。私は天木さんの意見には反対だが、官僚にこのような人物がいてもよい。もっとも天木さんは今年の8月29日、勇退を勧告されて退職している。年齢が56歳だからまだ少し早すぎる。役人の世界も、企業もトップの意向に逆らって意見具申するものを嫌う癖がある。日本の社会は仲良しグループなのである。本当はこのような人物を抱えていたほうが役に立つ。
 天木さんは今回の米軍の対イラク攻撃について国際ルールを無視した暴挙だとして、川口順子外務大臣宛に送るとともに総理と官房長官に供覧してほしいと意見具申をした(平成15年3月14日)。その意見具申によれば、一つは「国連決議なしの対イラク攻撃は何があっても阻止すべきである」という。イラクを武装解除しサダム・フセイン体制ヲ排除することがもはや唯一の解決策であることについて国際社会は一致している。その認識をもちながら天木さんは国連決議が成立しないままに米国が単独攻撃に踏み切る事態だけはなんと阻止すべきであると考える。それを食い止めるため気迫ある外交が必要ではないかと訴える。もうひとつは「中東和平交渉の一日も早い再開が必要である」という。不幸にして対イラク攻撃が避けられなかった場合、その不幸を補って余りある唯一の希望は、中東和平の実現をおいて他にないと主張する。
この意見具申は全在外公館にも転電された。外務省からは何の反応もなかった。中東の日本大使館の若い外交官からメールで「「拝読して男泣きしました」というのが唯一の反応であった。
 さらに3月20日、イラク戦争が始まると、「一日も早く戦争を終わらせるべく国連による戦争停止の合意を実現することである」と意見具申する(3月24日)。在勤給与が減らされた時には多くの大使が意見具申を行ったが、対イラク攻撃問題では誰一人として意見を具申する者はいなかったそうだ。政府の決定に異を唱えればうとんじられる出世に妨げになるという功利的な配慮が働くらしい。それとともに國を思う志を持つ者が少なくなったということでもあろう。自由闊達に意見が言える組織でなければ活力は生まれない。鈴木宗男問題を見ても外務省はだらしなさすぎる。少数意見には未来志向があると言われる。それ故に尊重されなければいけない。たとえ少数意見とは異なる施策が実施されたとしても上に立つ者は常に少数意見の意図するところに思いをいたせば物事は成功する。
 天木さんは今後とも私憤と公憤にかられて発言してゆくと言うからエールを送りたい。

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