2003年(平成15年)2月20日号

No.207

銀座一丁目新聞

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茶説

「カレル橋の朝」(プラハ)が語るもの

牧念人 悠々

 友人、渡辺瑞正君のグループ展を見た(2月3、8日・東京交通会館B1)。「カレル橋の朝」と「ベネチアのカーニバル」の二点を出品していた。力作である。出展41作品の中で人間が描かれているのは僅か5点に過ぎない。渡邊作品には2点とも「人間」がいる。後者にはカーニバルに出た道化姿の女性が川を背に画面中央に真っ赤に描かれ、なんともいえない精気をはなつ。カレル橋にしても朝を選んだ感覚が鋭いと思う。昼間は観光客で混雑しているはずである。朝もやがだだよう中に人影が4つ、5つ。橋の全長520b、巾10b。橋の欄干には聖人やチェコの英雄など30の像があるはずだが、わずかに数体が黒くみえる。大道芸人、似顔絵描き、お土産屋もいて喧騒をきわめる。その姿もない。静寂が伝わってくる。それも深い感じがする。
 カレル橋といえば、私はベラ・チャスラフスカ(東京オリンピックの花形体操選手・チェコ反体制グループの指導者)と学生たちがこの橋の上で自由を求めて喜ぶ姿を撮影した写真を思い出す。この写真は平成2年元旦のスポニチの1面を飾った。平成元年春から始まった東欧の民主化運動を象徴する一枚の写真であった。弾圧をのがれて潜行しているベラを見つけるのは容易ではなかった。それをスポニチの中森康友記者が3日がかりで探し出し、反政府デモの先頭を切ったカレル大学哲学科の学生たちとベラにデモの再現をしてもらったのである。「視野を広く、目を世界に向けよ」は取材の鉄則である。
 あれから13年。チェコはいまでこそ共和国だが、長い時期、国家なき民族であった苦難の歴史をもつ。治乱興亡夢に似て橋下のヴルダヴァ川はすべてを包み込み悠然として流れる。画面から伝わる静寂にチェコ民族のたくましさが秘められているのを知る。東方の国からきた一人の旅人がそれを一幅の画布に納めたのがなんとも嬉しい。

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