2003年(平成15年)2月1日号

No.205

銀座一丁目新聞

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茶説

ケイタイ文化革命進行中

牧念人 悠々

 一人の塾講師が書いた本「DeepLove」ーアユの物語ーが女子高校生の間でブームを起こしている。内容は援助交際を赤裸々につづり、愛にめざめながらもエイズで死んでゆくというもの。この作品ははじめ携帯サイトで連載小説として発表され、たちまち渋谷の高校生の間で評判となリ、十七歳の主人公アユは伝説の人となった。
 著者YOSHIさんが携帯サイト「ザブン」で連載中は100万人の高校生が感動したという。著者が訴えるのは「人は何のために生きるか」「愛とは何か」「人間は弱いものである」などきわめて哲学的なことである。それを援助交際の実体を描きながら、わかりやすく若者達に伝えている。それに10代の若者達が深く共感した。この事実に驚く。無関心、無感動、無責任、活字嫌いなどといった若者の姿は全く感じられないからだ。昨年12月25日、スターツ出版から出版されたこの本は既に7万部が売れている。とりわけ、地方で人気を呼んでいる。
 戦争の話が出てくる。空襲の爆撃で妹を失ったおばあちゃんはいう。「私は、時代を憎んだ!それしかなかったの、人間にこんなむごいことをさせる、狂った時代を憎むしか!・・・そしてそれ以来、笑いも涙も私の顔から消えたわ」おばあちゃんの最愛の人は特攻で戦死している。
 さらにいう「あの頃は、力がすべて!・・・力さへあれば何でも出来た。今はそれがお金にかわっただけ。お金があれば、なんでもできる・・・」「でも、お金の方がもっとずっと怖いかも・・・気づかないうちに誰もが蝕まれてゆくから・・・」援助交際も知らず知らずのうちに心を蝕んでいく。「私の自由よ」と叫んでも、心はづたづたになってしまう。だから読者から「援助交際は止めます」というメールがたくさんきている。
 心臓病に悩む義之との出会いで主人公は変る。<人は過ちを犯す生き物。時には深い悲しみから・・・あるいは深い憎しみから・・・深い絶望や、深い迷いから・・・。そこから救ってくれるのは・・・深い愛だけなのであろう>
 アユのただ一人の友人レイナも迷える羊であった。<過ちを繰り返しながら人はいきていく。つまずき何かに逆らいながら。子供たちは・・・親も・・・迷いながら生きていく。でも、たとえどんな過ちを犯しても、親だけは許してくれる。そこに愛があるから・・・>レイプされて妊娠したが、生まれてくる赤ん坊に何の罪もないと、女の子を生む。アユとなづける。
 同世代の若者が「頑張る気力を、勇気を与えてくれた」と感想を寄せるのは、どのような若者でも懸命に生きたいと願うからであろう。ケイタイをもたない私はこのような携帯文化の社会的現象に驚嘆する。まさに革命的である。
 著者は援助交際でエイズになった少女のからのメール「この本で私のような少女を減らして欲しい」という願いに答えるためこの本の売上金と印税の一部を「エイズ撲滅基金」に寄付するという。

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