2003年(平成15年)1月1日号

No.202

銀座一丁目新聞

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お耳を拝借(70)

師走の3日間 ――去年の日記から――

芹澤 かずこ

 

 12月26日(木)
3時30分、友人らと待ち合わせて恒例の穴八幡詣で。娘や知人の所から預かった古いお札(ふだ)も一緒に納める。今年も境内の出店で鬼の面つきの節分豆も購入する。豆まきが終ると、このお面は台所の上部に火の用心のために貼っておく。前の年に、縁起ものとして買った柚子(融通)の木は土に下ろして成長を楽しみにしていたのに、新芽をアゲハ蝶の幼虫にすっかり食べられて伸びなやんでいるので、日本の経済同様、今年は我が家の金融もおぼつかなかった。阿佐ヶ谷に大きな100円ショップがあると聞いて出掛けて行く。
「これが100円?」と思うような品物がズラリ。他所で何倍もの値段で買ったものが悔やまれるほど。みな何を買ったのか大きな袋をぶらさげて、それでも懲りずに地元の友人お薦めの店で正月用品など買い漁る。

 12月28日(土)
今日から新年の5日まで9日間の冬休み。休日の醍醐味はなんと言っても朝寝坊にある。もっと寝ていたい時に目覚ましでうるさく起こされないのがいい。だが土曜日は生ゴミの収集日、しかも今年最後の収集なので気になっておちおち寝ていられない。いつものことだが翌日がお休みだと思うと、体は多少疲れていても、開放的な気分で寝てしまうのが勿体なくて、特に何をするでもなく、ただグズグズと起きていたい。こういう時にはひとり暮らしはとても気が楽である。いつまで好きにしていようが誰にも文句を言われない。
「随分遅かったじゃないの」
「いい加減で早く寝なさいよ!」
かっての私は、気分よく帰ってきた夫や楽しんでいる子供たちに、随分と要らぬ小言を言っていたことが今にしてよく分る。
遅い朝食を済ませて、例年ならここで大掃除の開始となるのだが、今年は11月の末にお風呂と台所の改装工事をして、ついでに畳替えと襖(ふすま)の貼り替えも済ませたのでそう慌てることもない。

 12月29日(日)
穏やかな晴天。座布団とクッションを陽に干し、カーテンやカバーの洗濯をしながらガラス拭き。後は仏壇のお掃除。毎日、見えるところの埃をはらうのが精一杯なので、中のものを全部取り出してひとつひとつ布拭きをする。蓮の台座に乗っている阿弥陀様のボツボツ頭の埃もよく払う。ご先祖の位牌、私の両親の位牌、そして夫の位牌を拭きながら、私もいつかこのように姿を変えるのだろう、とふと考える。ひとつひとつを丁寧に元の場所に戻し、最後に過去帖を広げる。
我が家の過去帖には、親族のほかに知人や友人の命日も記してある。大好きだった作家の向田邦子さんや畏れ多いことであるが昭和天皇の御名まで書かせていただいている。自分の家の過去帖に果たして書いてもいいものかどうか疑問ではあるけれど覚え書きであって、祥月命日にはその方たちのご冥福をお祈りして、香を手向けている。と、書くと如何にも信心深いようであるが、むしろ習慣としてやっているに過ぎない。
午後は買い物とおせちの下ごしらえ。晦日からは孫たちがやって来る。そして大晦日はゆっくり紅白を楽しみたいと、毎年思っているけれど、結局は紅白を背中で聞きながらまだ台所仕事をしていそうである。



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