1999年(平成11年)2月20日

No.66

銀座一丁目新聞

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“針の穴から世界をのぞく(12)”

 ユージン・リッジウッド

ヒラリー・アンド・リディー

 [ニューヨーク発]クリントン大統領の女性問題に端を発した弾劾裁判が決着するや、にわかに二人の女性が2年後の選挙に向けて脚光を浴び始めた。一人はクリントン大統領の夫人ヒラリー・ロドハム・クリントン、もう一人は前回の大統領選挙でクリントンに敗れたボブ・ドール前共和党上院院内総務の夫人リディー(エリザベス)・ドール。二人とも共に“アメリカでは初めて”の女性になるかどうかで大きな関心を集める。ヒラリーは初のホワイトハウス出身の上院議員に、そしてリディーは初の女性大統領に。

 ヒラリー・クリントンの名前はまるで弾劾裁判での夫の無罪放免を待っていたかのように一気にマスコミをにぎわせ始めた。ニューヨーク州選出の古老民主党上院議員、パトリック・モイニハンが今期限りで上院議員を引退すると表明したのを受けて、ニューヨーク州の民主党幹部たちが2000年上院選挙に向けてヒラリー担ぎ出しに走り始めたのだ。スチューピッドなビルのキューピッド騒ぎに辟易していたマスコミは、才女ヒラリーの転身話しに飛びついた。彼女の識見と弁論の才は夫をしのぐものがあるとの評判に加えて、夫の不祥事にも毅然とした態度を保ち続けたことがニューヨーク州の民主党員たちをしびれさせた。現住所ホワイトハウス、本籍アーカンソー州というヒラリーは現状ではニューヨーク州から出馬出来ないが、今年中に仮住所をニューヨーク州内に登録すれば解決する。

 もしヒラリーが出馬を決意すれば、ファーストレディーが上院議員を狙うのは初めて。クリントン大統領は、「彼女が上院に席を置けば、きっとすばらしい存在になる」と前宣伝に一役買う。クリントンが新たな致命的不祥事を起こさなければ、夫婦のホワイトハウス居住権は2001年1月の次期大統領就任まで。とすればホワイトハウスからキャピトルヒル(米議会議事堂)へ。新しい記録の確立は非常に高い。

 もう一人の注目の女性リディー・ドールはこのほど全米赤十字社の総裁職を辞任した。いよいよ本格的に大統領選挙に出る準備を始めたと観測されるゆえんだ。夫のボブが96年の選挙でクリントン民主党に敗れただけに、もしエリザベスが出馬、共和党大統領候補の座を勝ち取れば、大統領選は民主党に対する夫の雪辱戦にもなる。レーガン、ブッシュ政権で閣僚を務め、以後赤十字総裁として大組織を指揮して募金拡大にも大きな貢献があったとされるリディーは、ワシントンでの政治経歴では夫に勝るとも劣らない。

 現在共和党の大統領候補レースでは、ジョージ・ブッシュ・テキサス州知事の人気が先行している。同じ名前の元大統領の父の全国的知名度に加え、テキサス州知事2期の行政手腕により共和党内の支持は日増しに高まる。果たしてリディー・ドールがブッシュを倒すことが出来るか。共和党では更に二人の議員が既に大統領予備選への出馬を表明しており、今年秋までに数人が立候補を表明してアイオワ州で始まる来年前半の一連の予備選で熱い闘いを繰り広げることになる。

 アメリカ政治で民主主義の神髄を見せてくれるのが大統領予備選挙である。この制度のおかげで全国的には無名に近い地方政治家が一躍大統領への道を歩むことが出来る。76年ジミー・カーター・ジョージア州知事は、民主党最初の予備選挙が行われた東北部ニューハンプシャー州では「ジミー、フー(ジミーって、だれ)?」と聞かれる無名ぶりが話題になった。ところが素朴で温かい人間性からその予備選で勝利したのを皮切りに相次ぐ予備選挙を勝ち抜き、民主党大統領候補になったばかりか、共和党現職のフォード大統領を破ってホワイトハウスの住人になってしまった。クリントンが92年に現われた時もそうだった。知事として多少の知名度はあったが、弱冠45歳の青年政治家の全国的知名度はほとんどないに等しかった。しかしちょっとはにかみ屋の初々しさが残る不思議な魅力で、あれよあれよと見る間に民主党候補の座を射止めてしまった。予備選挙の闘いが始まってまもなく最初の女性問題が発覚したが、ヒラリーがビルの手を握って「私は夫を信じている」とテレビで弁護したのが効を奏して難局を乗り切った。

 戦後だけに限って言えば、共和党は元副大統領もしくはアイゼンハワーやレーガンのように既に圧倒的知名度を得ている人が大統領候補になり、一方の民主党は全国的知名度のない地方の知事(ケネディーは若手上院議員)が予備選を勝ち抜いて大統領候補になるパターンが多かった。2000年の選挙ではこのパターンが逆転して、民主党はアル・ゴア副大統領でほぼ決定しているが、共和党にはダークホースの出る余地も残されている。しかし最大の関心は果たして女性初の大統領候補が誕生するか、さらに世界最大の政治権力者であるアメリカ大統領に女性が就くかどうか。新しい歴史への夢が膨らむ。

 マーガレット・サッチャーは鉄の女と恐れられて、フォークランド紛争を戦い、英国病に悩むイギリスの復活を果たした。果たしてアメリカ国民は核のボタンと三軍統合最高司令官としての戦争指揮権をリディー・ドールに委ねる勇気を持てるだろうか。

 2年間というマラソンレース。今選手集合の笛が鳴っている。

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