1999年(平成11年)2月20日

No.66

銀座一丁目新聞

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 愛知県瀬戸市の、猿投山麓にある海上の森は、名古屋市近郊にある最後の広大な里山です。ここは東海地方にしか生息していないシデコブシをはじめとした貴重な生物が見られ、野鳥の種類も多い豊かな自然の宝庫です。現在、21世紀万国博覧会の開催予定地とされ、跡地利用としての都市化計画とともに、この場所の自然環境に影響を与えようとしている問題が起きています。ではどんな所なのか、トピックスなど踏まえてお届けします。(図は図上をクリックすると大きくすることができます)

自然通信(16)
海上の森・1月

牧野 紀子(愛知県) 

 1月24日(日)雨。そんな日に、私は主人と海上の森へ尋ねていきました。万博用地になったため他所へ移転した鉱産跡地が、訪れる人の駐車場代わりになっています。そこで車を停め、天気のこともあってゆっくり平坦な道を散策しはじめます。

 川沿いなどのアシなどの草原や薮から沢山の鳥たちのつぶやきが聞こえてきます。時々ホオジロやカシラダカといった冬は薮に集まって暮らす鳥たちが顔を出し、また中へ引っ込んでいきます。薮は雨宿りにも、ねぐらにも、天敵から姿を隠すのにもよい場所であることが見ると分かります。エナガ達が木の上を餌を捜してか巡ります。小さな体に長い尾で飛び回る様子は音符の記号のようでかわいらしいです。民家の鳥の餌台にはメジロが20羽以上も、ヒヨドリ達と餌の攻防をしつつ群がります。冷たい雨の中でもこんな生き物達の営みを見ると寒さを感じなくなるから不思議ですね。

 里へたどり着き、雨を避けた場所でお弁当を食べることにしました。この日は定例観察会が行なわれている日で、途中で観察会に参加している人にも会いました。「イカルが鳴いてますよ」とのことです。確かにつぶやくような、嘴の黄色な、スズメよりも少し大きめな鳥イカルの声が聞こえてきます。お弁当を食べながら遠くの樹上にいるイカルの姿を双眼鏡で追います。その辺りはいつも囀りが聞こえる場所ですが、今回は十数羽はいるようで、鳴きかたも少し違っています。主人が「30羽はいるよ。」と言います。「本当に?」と言った側から、突如その場所より一群れほどが飛び出しました。何とざっと見ても50羽はいます。海上の森のこの時期に、これだけの数のイカルが見れたのは珍しいことです!

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テイカカズラ

アカウソ

 雨になり、周りが少し暗いと隠れていた鳥たちも少しは安心するのでしょうか?お昼ご飯中、外では、普段薮に隠れて姿を見せないツグミの仲間シロハラが堂々と現れて、地面を足でかき回し、やはりご飯を探しているようでした。こちらの視線に気づくと、まるで好奇心を示したかのように近くを飛びつつ姿を隠しました。恥ずかしがりやさんの鳥で、やはりちっとも姿をみせてくれないアオジ達が、今までどこにいたの?と思うほどこの日行く道のあちこちで群れて地面をつついていたのも印象的でした。雄は良く見ると緑がかっていて渋いです。夏には霧ケ峰などの高原へ行って、奇麗なコーラスを堂々と姿を現して披露してくれます。(勿論子育ての為。)

 この日久しぶりに赤池へ向う吉田川沿いの道も行きました。3時過ぎ、雨脚が上がってきました。途中やはりボーリング調査が行なわれた搬入路跡が出来ているのを見るのは少々痛ましいことでした。アオジたちはもとよりアカゲラが奇麗な赤い羽根模様を見せ、ルリビタキの青い奇麗な雄が行く手でこちらを見ています。冬の赤池には、コナラやヤマザクラで筒を作って中にいるエグリトビケラの幼虫の姿も、今年もいました。来年もお会いしたいのですが・・・。帰りに「フィー・フィー」と口笛のような声とともに喉が赤いウソが目の前に。喉が赤く奇麗な雄2羽、地味な色の雌2羽の計4羽。よーく見ると雄のお腹の部分もかすかなばら色です。これは、ウソの中の亜種、アカウソなのだ、と解りました。ウリカエデの翼の着いた実を懸命に食べていました。

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アオジ

 雨などあいにくの天気ながらも充実した海上の森の一日を今日も過ごせ、感謝しました。

 良く、海上の森のような里山は、下草刈りなどの手入れをしないと荒れてしまい、生物多様性が維持出来なくなる、と言われます。また、人が入って遊べないような薮が茂った森は魅力がないとも。里山に確かに時が経てばある程度の手入れは必要かもしれませんし、ササユリや、キキヨウなどの明るい日光を好む植物を維持するにも必要ではある、と思います。でも、冒頭に書いたように薮は鳥たちのねぐらや身を隠す場所としても大切であることも確かです。また里山の特徴は地域ごとに色々で、例えば関東では人の背丈以上もあるアズマネザザがびっしり覆った林を手入れしている写真を見掛けますが、海上の森ではそのような光景はありません。(アズマネザサも生息していない)里山を生態系豊かに維持するのには、色々な生き物の住処のバランスを注意深く見ながら行なっていかなくてはならないのでしょう。勿論生き物の住処のバランスを明らかに壊してしまう万博や住宅地開発は、自然を守る為の里山維持とは言えるはずもありません。

トピックス

無謀なボーリング調査に対し、ボーリング施工調査公金支出差し止め訴訟と新たに環境アセス住民監査請求を提出。

 11月26日と12月2日に道路建設予定地、及び住宅建設予定地で行なわれる予定の計211本にも登る、地質調査の為のボーリングを差し止める為に、市民団体が愛知県に対し、住民監査請求の意見陳述が行なわれました。これに対し、12月28日、愛知県監査委員は却下の返答を請求者各自宛に書面通達してきました。

 この問題点は、もし、予定どおり調査が行なわれるとしたら、今まで繰り返し行なわれてきた地質調査同様、搬入路のための樹木伐採が大量に行なわれ、地下水の噴出を起こすなど自然環境に影響を及ぼす事にあります。また、海上の森に計画されている万博跡地の新住宅や、道路に伴うアセスメント(環境影響調査)はまだ結論が出されていないまま、手続き中です。にも関わらず、必要と思われる以上の調査数は、自然破壊を伴い、あたかも工事着工の準備の様子を示しており、非常に大きな問題です。また、調査依頼の方法のずさんさも問題になっています。

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ボーリング調査位置図

 1月26日に、「海上の森を守る住民訴訟の会」は、鈴木愛知県知事等を被告に住民訴訟を提起。(原告41名。)第一回公判は3月上旬に名古屋地裁で行なわれる予定。また、その前日25日には、「国際博・新住事業の環境影響評価調査に関する愛知県知事・関係職員の措置請求書」(住民監査請求。監査請求人108名。)を提出。意見陳述を2月10日午前10時より県庁西庁舎6階で行なう予定。

 12月より1月までのボーリング工事のうち、民家の裏山4本については、市民の抗議により、1月26日に中断が決まったそうです。

(以上、「海上の森を守る住民訴訟の会」はがきニュースより)
問い合わせ:0561-84-1323 加藤 徳太郎さんまで

(図の、「ボーリング調査位置図」参照にして下さい。出展は「海上の森の万博やめよう県民会議」の機関誌 緊急増刊号 98年11月27日発行のものから)

新愛知県知事選挙の行方は・・・。

 2月7日には、現鈴木愛知県知事に代わる、新しい知事を選ぶ選挙投票が愛知県で行なわれます。今までの県政を引継ぎ、万博や新空港を推進する神田真秋候補に対し、万博を始めとした大型公共事業の見直しを求める影山健候補が健闘しています。このページが掲載されるころにはもしかしたら投票結果が出ているかもしれませんが。影山さんのご健闘を祈っております。

ホームページの案内

(財)日本野鳥の会
http://www.museum-japan.com/wbsj/

WWF−Japan
http://wwfjapan.aaapc.co.jp/

(財)日本自然保護協会
http://www.nacsj.or.jp
ボーリング調査に対する意見書が掲載されています。


こちらのHPもどうぞ・・・。
  
青山さんのHP「海上の森」(野鳥の会愛知県支部公認ページ)
http://www.met.nagoya-u.ac.jp/AOYAMA/nature/kaisho.html

 今まで森で確認された野鳥たちのリストや森の風景などの写真が沢山掲載されています。

上杉さんの「瀬戸市の住人のページ」
http://venus.synnet.or.jp/UESUGI/

 今回問題となっているボーリング調査については、「愛知県のずさんな外部委託調査の実態にせまる」のメニューに出ています。「シデコブシ切断事件」については、「万博関連」で写真での詳細報告をご覧ください。(「表紙」からでもアクセスできます。)

 そして更に、12月12日より、「市民が提案する森を守る万博」という、万博の現計画に代わる、他の開催地も視野に入れた、自然を破壊しない分散型万博(代替案)の内容が掲載されました!海上の森は里山体験ゾーンとして、現状のまま保全するというもの。是非ご覧ください。


NGO活動のご案内

  1. 「市民が提案する森を守る万博・海上の里山を世界遺産に!」のパンフレットが出来ました。
     上記の上杉さんのHPにもある万博の代替案内容のパンフレットです。現計画と比べて、本当の環境との共生の意味からも、また危ぶまれる愛知県の財政面、経済面から見てもはるかに有効的なものと思います。

  2. 海上の森・里山バンダナ(村上康成氏作)発売中です。
     バンダナには、海上の森で見られる生き物たちが描かれています。描いたのは、絵本作家としても有名な村上康成さんです。

    価格:1枚=1,800円  3枚=5,000円  5枚=8,000円  10枚=15,000円 

 1.2.ともお問い合わせ、及び申込先は489-0953 瀬戸市柳ケ坪町98-5 (0561)84-2953まで。
(万博の代替案については、ただ今賛同者募集中です。どうぞ多数のご賛同お待ちしております!!)

新たな署名活動が始まりました。ご協力お願いします!
(以下要望内容抜粋)

 愛知県瀬戸市「海上(かいしょ)の森」を「世界遺産の里山」として登録することを要望します。

 2005年に開催される国際博覧会の予定地、瀬戸市「海上の森」は大都市名古屋市の近郊に残された国内でも有数の自然豊かな里山です。そのいきいきとした自然は都市の人々にとって大切な心の憩いの場になっています。

 日本の伝統的な農業によって維持されてきた里山は、四季折々の変化に富んだ美しい景観を描き、原生自然にはない農耕文化と結びついた独特の生態系が、自然と一体となった文化と心を育み、同時に生物の多様性も保持してきました。

 私達は、日本文化の原風景を保つこの里山を、わずか六ヶ月の博覧会や必要性の無いニュータウン構想で潰すのでなく、未来の子供たちや森に住む様々な生き物のため、活用しながら保存する新しい概念の“世界遺産の里山”として登録する事を要望します。

(提出先は環境庁長官宛)

愛知万博から「海上の森」を守るネットワーク
            (宮永 正義 名古屋市西区江向町1-60)


署名送付先・連絡先 

愛知万博から「海上の森」を守るネットワーク 
 451-0013 愛知県名古屋市西区江向町1-60  052-524-1586(昼)

海上の森自然観察会
 489-0953 愛知県瀬戸市柳ケ坪町98-5    0561-84-2953(夜)

このページについてのお問い合わせは次の宛先までお願いします。
www@hb-arts.co.jp