2002年(平成14年)11月1日号

No.196

銀座一丁目新聞

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茶説

劇場占拠事件の教えたもの

牧念人 悠々

 モスクワのチェチェン武装勢力による劇場占拠事件は、ゲリラ全員死亡、人質120人死亡(うち外国籍9人)、入院人質643人で終わった。人質の死亡者はさらに増える見込み。死亡者は2人をのぞいて全員、特殊ガスによるという。この特殊ガスの使用について、新聞は内外からの批判が高まるのが必至だと伝える。ロシア政府はこの種テロには市民をまきこんでも断呼として制圧するという姿勢を世界に示したといえる。世論調査では今回の強行突破を80lが支持しているという(10月30日毎日新聞夕刊)。
まず、今回の事件の特異性に注目したい。武装したテロ50名が劇場を占拠、観客800名を人質に取り、要求を政府に突きつける事態は予想外の出来事である。テロの攻撃は千差万別であることを知るべきである。テロ50名の説得は難しい。勿論、指揮官と話し合う手はある。地雷を仕掛け、腰に爆弾を結びつけたテロは死を覚悟している。その中で説得には限度がある。子ども、女性、病人、外国人の解放ぐらいは話が付く。現に何人かは解放された。
話し合いか、強行突破か、判断のわかれるところである。話し合いがつけばこれが最上である。日本であればどうするか。これまでの日本の処理に仕方をみれば、何よりも人命尊重で「超法規」でテロの要求をのんで解決を図るであろう。今度の相手側の要求はロシア軍のチェチェンからの撤退である。チェチェンに強行路線をとるプーチン大統領には飲めないものである。となると、強行突破しかない。テロを狙撃するには人数が多すぎる(指揮官は狙撃されて死んだ)。身体を麻痺させる毒ガスを使用して制圧するほかあるまい。そのガスが強すぎた。残念である。戦法は間違いなかったように思う。人質が多数死んでいるので作戦は失敗に属する。
中国で出版された「超限戦」にはこれからの戦争はテログループと主権国家となると指摘している。今回の占拠事件を一つの戦争とみれば、市民が巻き込まれたのはやむを得ないと言うことも出来よう。バリ島の爆弾テロ事件でも分かるように、相手は自国民であろうと外国人であろうと区別を付けない。無差別である。今後もこの種事件は予想される。どのように対処するのが、国民に納得されるかをよく研究し、訓練をしてゆかねばなるまい。けして対岸視することはできない。
テログループのなかにチェチェン紛争で夫を亡くした女性が18人もいたときく。憎しみは憎しみを呼ぶ紛争の痛ましさをかいま見た思いがした。

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