2002年(平成14年)10月20日号

No.195

銀座一丁目新聞

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ある教師の独り言(4)

−水野 ひかり−

 一読総合法は一文一文とても大切に捉え,前の文で読み取ったことを比較したり重ね合わせたりして考えながら読みを深めていく、とても素晴らしい学習方法であった。
 子どもに一文一文読みとらせていくには、先ず教師がその文を読みこなさなければなんらない。私自身がしっかりと読みこなしていなければ子どもの読みとりの良さを拾い上げていくことは出来ない。教科書の文を声を出して読み,その文から浮かんだものを文の隣に書き込んでいく。それを繰り返しながら読みを深めて行く。そうして授業に臨む。授業中、子ども達にも一文ごとに書き込みをさせる。文から読みとった、思ったこと、感じたこと分かったことを等をつづらせ、それを発表につなげさせるのだ。
 初めてこの方法で国語の授業を始めたとき、子どもたちは面倒だと不平たらたらであった。プリントに印刷した文を書か込ませ、発表につなぎさせる。けれどきあきこみがどの子どもにもスムーズに出来るわけはなく、書き込みのやり方を説明している間の授業が終わってしまうことがしばしばあった。もたついていてだらだらした授業が続き子ども達にとっては今まで以上に嫌だと思ったことだろう。けれど折角やり始めた学習法だ。中途半端でやめたくない。子ども達がやって良かったと思える授業作りがしたい・・・その思いを大切に一時間、一時間前よりもステップアップさせていこうと思った。そこで子ども達の書き込みを家に持ち帰って一人一人の書き込んだ文を読んで、丸をつけたり励ましの言葉を添えたりした。そうする事で今まで今まで見えなかった子どもの思いが見えてくるようになってきた。そして子どもそれぞれの良さも見えてきたのである。
 当時いつも友達とぶつかって喧嘩ばかりしていてどうしょうもないないやつだと思っていたA男と言う子がいた。いちいち他の子共の行動に文句を付け、相手が失敗すればあからさまに馬鹿にしてトラブルにつなげてしまうのだった。授業中も手を挙げることもなく、常に不機嫌そうんな顔をしていて、わざとらしく大あくびしたりちょっとでも教師が隙を見せるとおちょくった声や言葉を発して妨害した。書き込みもなかなか本気で取り組まない。そんなある日彼が久しぶりに「うまい書き込みが出来たか読んで」と自ら進んで持ってきた。彼の読みとりを読んでみると驚いたことに嫌みな気持ちが一つも出てこない。椋鳩十の「大造じいさんとガン」の物語学習である。
 大造じいさんが何度もガンを捕獲するための仕掛けをがんの棟梁の残雪の知恵に寄って失敗させられたその場面、彼は残雪の頭の良さに感心すると共に大造じいさんが失敗しても、失敗しても色々と工夫していく姿にも感心し、お互いがとても良いライバルになっていると、書き込みしていた。
 給食の時間にA男のグループに入った私は読みとりの良さを誉めた。A男は照れながらも嬉しそうであった。そして「今度手を挙げて言ってみるか]なんてつぶやいた。その後彼は朗読でもがんばりを見せダイナミックな読み方ではピカイチだとクラスの仲間から評価を受けるほどになる。

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