「世界こどもハイクキャンプ2002」の様子をNHK俳壇で見た(9月29日放映)。驚きの連続であった。俳句の力の大きさに感動した。世界23の国と地域の子ども(12歳から15歳)から作品を募集したところ、7万句の応募があった。1990年「世界こどもハイクコンテスト」として始まったこの大会(主催・日航財団)は今年で7回目を迎えた。今回のテーマは「私の国の魅力」。19人の小さい俳人たちがアメリカ、イギリス、カナダ、メキシコ、タイ、ドイツなどから会場である石川県松任市にやってきた。ここは加賀の千代女の出身地。「朝顔につるべとられてもらい水」は余りにも有名である。晩年、剃髪して素園とも号した。73歳でなくなっている(安永4年・1775年)。この人の「落鮎や日に日に水のおそろしき」の句が好きだ。松任は芭蕉も奥の細道で立ち寄ったところだという。「おくの細道」によれば、金沢に着いたのが元禄2年7月15日(陽暦8月29日・1688年)というから今から314年前のことである。松任は金沢から9.4キロしか離れていない。芭蕉も日本で外国の子どもたちがゆびを折りながら句を考えている姿を見たらさぞかしびっくりして腰を抜かすであろう。
司会・好本恵さん、パートナー・マブソン青眼さんで番組は進行する。青眼さんは剣道2段、俳句暦フランス語17年、日本語8年のフランスの人である。芭蕉は「ただ子どもの事に心を尽くすべし」と説き、一茶もまた小動物と子どもを一緒にした句たとえば、「鶯や懐の子も口を明く」などをたくさん作ったという。
入賞の子どもたちの作品が市内の聖興寺に展示された。「雪をけりたてがみなびかせ走る馬春はすぐそこに」(フランス・アガット)「果樹園でボクシングの練習スパーリングの相手はバナナの木」(タイ・マナット)「蝶のような娘たち飛び入り茶摘する山いっぱいに広がる香り」(中国・ヤオ)・・・
見学にきた年配の女性たちの批評。「大きく掴んでいる」「広がりがある」「いろいろ想像できる」いずれも感心の様子であった。
青眼さんは「外国語の俳句は短、長、短の波のようなリズムと時間を表わす『時語』がはいればよいのではないでしょうか」と解説する。俳句が世界に広がりをみせている事についてはつぎのように言う。「人間が失っている自然とのつながりを再び取り戻す楽しみがあるからでしょう」。とすれば、環境破壊が世界的に叫ばれる昨今、俳句の価値はますます高まるばかりである。
子どもたちは白山のふもとにある白峰村に一泊二日で吟行に出かける。60分のうちに句を作れといわれてみんな頭を悩ます。「太陽を眺めるバルコニーから地球をかかえこむ」(カナダ)「大夏木我らを常に見守って」(オーストラリア)などの傑作が紹介される。
連句の試みは面白かった。青眼さんの発句は、「万緑の加賀いっぱいの子どもかな」これを好本さんが「蝉と競うは世界の言葉」とつづけた。子どもたちが思いつくままに書き添えた。「カブトムシ木に蜂蜜吸いにきた」・・・・「オリンピックはみんなの舞台」(宏太・日本)挙句を青眼さんが「春風を追いみなの細道」と記した。史上初の多国語による連句「万緑の巻」の完成である。
青眼さんは「ハイクの国際化は子どもの俳句から始まると」と強調する。国際親善、文化交流と口先ではいろいろ言うが実行がともわない。二年おきとはいえ日航財団は素晴らしい事業をしている。敬意を表したい。再放送は来年2月5日の予定である。このような番組は機会があればどしどし放映すべきである。
|