2002年(平成14年)9月20日号

No.192

銀座一丁目新聞

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競馬徒然草(23)

−遊び心− 

 ラジオの競馬実況放送を、BGMのように聴いていると、興奮気味のアナウンサーの声が耳に飛び込んできた。「アッパレ! アッパレ!」。急いでスポーツ新聞を開いてみて、そこに「アッパレアッパレ」という名の馬を見つけた。その馬が1着でゴールインしたのだった。アナウンサーが叫んだのを、誉め言葉の「天晴れ! 天晴れ!」と、勘違いしていたことに気付いた。馬の勝利を称える「天晴れ」ではないのだった。
 「天晴れ」という言葉は、意味は「みごと」「りっぱ」だが、これらにはない響きを持っている。単に誉めるというより、「褒め称える」というニュアンスが感じられる。誉め言葉としては、最上のものだろう。こんな誉め言葉も、近頃はあまり使われなくなったような気がする。悪事を働く人間が多く、この言葉が使われる機会がなくなったせいだろうか。死語になったと思っていた。それが、どっこい生きていた。そのことに改めて気付く思いがした。
 それにしても、「アッパレアッパレ」とは、勝ったときにはお誂え向きの名前だ。よくぞ付けた。では、その反対に、負けたときにお誂え向きの名前の馬はいないか。探してみた。「いるわけがない」と思ったが、実は、いたのである。「オソレイリマス」などというのは、いかにも牝馬らしく慎まし気な趣がある。ところで、今挙げた「アッパレアッパレ」や「オソレイリマス」の馬主は小田切有一氏。なかなか洒落っ気のある人らしく、ほかにも、面白い名前の馬を何頭も持っている。参考までに挙げてみよう。「オジサンオジサン」「オジャマシマス」「オシャレジョウズ」「コワイコワイ」「ミエッパリ」「イエス」「ワナ」。
 これらのうち、最も期待の高いのは「ワナ」という2歳の牝馬。9月1日の「新潟2歳ステークス」(GV・芝1600メートル)で、人気の牡馬を蹴散らした。それも後方から鋭い脚で差し切ったのだから、見事なもの。「牝馬だから、人気の牡馬たちをオンナの罠(わな)にかけたのだ」と、もっともらしい冗談も聞かれた。だが、勝ちタイムの1分33秒8は、2歳馬のレコード。一躍、来春のクラシック候補に名乗りを上げた。血統的にも、父が大種牡馬サンデーサイレンス産駒のフジキセキとあって期待は大きい。
 真面目な話に戻ったところで、少し付け加える。馬名の登録には規定がある。表記はカタカナで、文字数は2文字以上、9文字以内。ただし、企業の宣伝になるようなものなどは認められない。一般的には、血統から取った名前や強そうな感じの名前が多かったが、最近はかなり多様化してきている。これも競馬の大衆化を反映するものだろう。
 ところで、仮にあなたが馬主になったとしたら、どんな名前を付けるだろうか。暇なときに考えてみるのも面白いかもしれない。気分転換にもなるし、頭の固くなってきた人には、頭の体操にもなるだろう。ひょっとすると、ボケの予防になるかもしれない。いずれにしても、遊びの世界。ストレスの多い時代だからこそ、遊び心も必要だと思うが、如何だろうか。

(宇曾裕三)

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