花ある風景(106)
並木 徹
石侍露堂監督、原作麻生幾の映画「宣戦布告」の特別試写を見た(9月9日・銀座東映)。平和にどっぷり使っている日本に敵が攻めてきたらこの映画のようにテンヤワンヤの大騒ぎになるであろうと思わせるものがあった。
今の日本には外敵が攻撃してきた時に備える法整備が全く出来ていない。そんな敵は存在しないと主張し、敵が攻めてきたら逃げるという国民がすくなくない現実である。その意味では必見の価値がある。
この映画は国籍不明の潜水艦が敦賀沖で座礁、乗り込んでいた特殊工作部隊員11名がロケットランチャーなどの重火器を手にして上陸、山中に隠れ、それを警察の特殊急襲部隊(SAT)、ついで自衛隊が出動、一戦交えるという設定である。
まず、SATに敵・工作員の射殺命令が下される。これを首相が撤回させる。このためSAT隊員たちは敵のロケット砲にやられてしまう。出動した自衛隊も手榴弾、バルカン砲の使用についていちいち首相官邸に設けられた「危機管理センター」に問い合わせるしまつ。その間、自衛隊員は次々に敵に倒されてゆく。敵は重火器で武装した工作員である。素手ではない。現場を一番良く知る現場指揮官にすべてをまかせなければ、戦闘はできない。出来ないどころか負けて殺されてしまう。現場指揮官が歯ぎしりするのはよくわかる。
自衛隊の出動をめぐってさまざな意見が出される。「自衛隊を動かせば北に戦宣布告したことになる」と憲法の解釈論議がかわされる。現憲法には宣戦布告の条文はない。大日本帝国憲法にはあった。インド、韓国、デンマーク、ドイツなどは『非常事態権限』(緊急権)の条文を憲法に明記している。映画では民宿の夫婦が射殺されてはじめて治安出動をきめる。それでも先制攻撃をひかえさせる。
もたもたしているうちに敵がミサイル発射体勢に入る。アメリカ太平洋艦隊が日本海に向かう。韓国は戒厳令を布告、中国はミサイル駆逐艦とフリゲート艦を出動という情報がつぎつぎに入る。『危機管理センター』は騒然となる。敵のミサイルなど怖くはない。イージス艦を出動させればよい。天頂を含む360度全周囲の半径百数十キロ以内に出現した10個以上の脅威にたいし、自動的に対空ミサイルを発射して追尾撃墜することができる。日本は5隻も保有している。さきのアフガン戦争のようにイージス艦の出動を躊躇する必要などない。「国民の生命、財産が機危に瀕している」からである。
戦争が起きる起きないにかかわらず、非常事態に備えて法整備を早くやっておかねばならない。そうでなければ、映画のような不条理なことがつぎからつぎに起るであろう。
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