花ある風景(105)
並木 徹
ケン・アマドの挑戦は続く。ひとりオペラ「トスカ」のつぎは「オテロ」である(8月30日・東京新宿、安田生命ホール)。原作ウイリアム・シェークスピア 脚本ケン・アマド 作曲ジュゼッペヴェルディ 編曲吉川郁郎。「オテロ」はシェークスピア4大悲劇のひとつ。これを脚色したヴェルディはこの時、74歳であった。私より二歳も若いというから驚く。1887年2月5日、ミラノ・スカラ座で初演された。のちに指揮者となるトスカニーニは20歳で管弦楽団員としてチェロを弾いてる。115年後、日本では、ほぼ満員の観客の前で「ひとりオペラ」として演じられる。すばらしい。
悲劇の舞台はヴェネチア国の領土キプロス島。オテロはこの島の総督である。ムーア人だが国家に尽くした功績により将軍までのぼり、貴族の娘デズデモナと結婚する。総督の地位も島に侵入してきたトルコの艦隊を撃退した功によるもの。オテロは旗手ヤーゴの陰謀で、貞淑な妻を疑い、殺してしまう。
この陰謀に使われるのが一枚の絹のハンカチである。オテロが妻に贈ったもので、デズデモナが落としてしまい、ヤーゴの悪巧みの小道具に利用される。ハンカチは不吉を意味するから贈り物にするなといわれている。歌劇ではその通りになった。脚本家ケン・アマドはこの小道具に「さまざまな愛の形」を表現したように感じられる。私は別な事を考えた。ハンカチは俳句では夏の季語である。「もろ袖にハンカチ探るとき艶めく」(山口誓子)という句もある。とすればセクシーな雰囲気をだしたかったのかもしれない・・・考えすぎであろう。
やがてヤーゴの奸計とわかる。オテロは死んだ彼女に取りすがり、己の罪をあやまり、胸に刀を突き刺して後を追う。
第4幕で歌われるアリア「柳の歌」は絶唱である。胸に響く。ケン・アマドはつくづく上手いと思う。
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