2002年(平成14年)7月20日号

No.186

銀座一丁目新聞

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安全地帯(16)

−いまの子供は贅沢すぎる−

−真木 健策−

 

 今の子供は贅沢になった。ひ弱にもなったようにも感じる。つい思い出すのが戦時中の小学生時代(昭和16年―20年8月)である。愛知県岡崎市に母親と一緒に住んでいた。食べるものも着るものも満足になかった。すべてが配給制度であった。資料をみると、16年の1月には米屋の自由営業が禁止されている。4月には米穀の配給通帳制・外食券制が実施され、一人当たり2合3勺(330グラム)ときめられた。町の食堂ではすいとんや雑炊を食べるのに長い行列を作った。私も並んで食べた。卵まで配給制となり平均2人で1個となった。17年2月には衣料が点数制となり、点数で学生服(32点)、ワンピース(15点)などを買うようになった。そのうち現物がなくなり、点数を持っていても買えなくなった。
 私は母とともに近郊の農漁村を回り、母の着物と食料と物々交換、飢えをしのいだ。「着物がなくなったらどうするのだろうか」と子供心にも不安な気持ちになったのを覚えている。
 艦載機による機銃掃射、B29による空襲にもあった。しばしば防空壕に逃げ隠れする生活であった。岡崎が大空襲に見舞われたのは20年7月20日未明である。市内の殆どを焼夷弾でやられた。材木町にあった自宅は右隣の家まで焼けずに残り、後は焼け野原となった。子供たちにこの話をすると「そんなことあったの」と、ぴんとこない、不思議そうに聞くばかりである。
 おかげでたくましくなった。粗食に甘んじて育ったので、食べ物には文句はいわない。もちろん偏食はしない。ハングリーは人を育てるというが、衣、食、住に事欠かない現代っ子はまことに不幸である。恵まれた環境にあって子供を鍛えるのは親しかいない。20日から夏休みにはいる。子供を鍛える絶好の機会である。

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