2002年(平成14年)6月10日号

No.182

銀座一丁目新聞

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茶説

ニュースの真実に思う

牧念人 悠々

 ニュースが真実かウソかの判断は難しい。い
ささか旧聞になるが、産経新聞の「News 
Watch」(4月22日)が報道した『北朝鮮工
作員報道訴訟 横浜地裁の判決は、一体なん
だったのか』は最近にない出色の企画で、い
ろいろ教えられた。
 ひとつは、ウソと知りながら訴訟を起こす人
間がいる。ふたつ目は、裁判官も時にはウソ
を見破ることが出来ない。三つ目は、訴訟に
弱い新聞社の体質が出るということである。
産経新聞は、日航機「よど号」ハイジャック
犯の元妻、八尾恵さん(48)に11年前に
訴えられた。八尾さんといえば有本恵子さん
を『北朝鮮に連れ出した』と、証言した人で
ある。八尾さんは昭和52年3月北朝鮮に渡
り、よど号犯の一人と結婚して娘二人を生ん
だ。帰国後、横須賀市でスナックを経営。昭
和63年5月、有印私文書偽造などの疑いで
逮捕され、マスコミ各社は八尾さんを『北朝
鮮の工作員か』と報道した(昭和63年6月
4日)。産経新聞も17回にわたり報じ、名誉
毀損で訴えられた。
 平成7年7月横浜地裁が判決を下した。その
判決は『報道により原告が北朝鮮の工作員で
あって組織的な工作活動を行っていたとの印
象を与え、原告の名誉を毀損する」として百
十万円の慰謝料の支払いを命ずるものであっ
た。産経は東京高裁に控訴したが、東京高裁
は『他の報道機関も和解している』と和解勧
告、産経もこれに応じ、お詫び記事も出した。
ところが、今年3月、八尾さんの証言は、敗
訴した産経新聞の内容をほぼ裏付けるもので
あった。11年後に始めて、真実が明らかに
された。こんなことも時にはある。
 筆者は現役時代名誉毀損で訴えられても記者
が根拠を示して『記事は正しい』といえば、
一審で負けても最高裁まで争えと指示した。
 裁判官もまた人の子である。しかし、深い
洞察力を持ってほしいと願わざるをえない。
 朝日、毎日、読売、東京も訴えられ、一審の
横浜地裁で敗訴、高裁で毎日を除く四社が和
解した。毎日だけが現場記者の取材を信用し
て裁判を続け、東京高裁で逆転勝訴し、最高
裁もニ審判決を支持した。
 新聞は攻めには強いが守りには弱い。会社の
首脳陣は名誉毀損で訴えられるとどうも弱腰
になる。和解を勧められると、すぐに応じて
してしまう。
 このような事件は今後も起こる。どのように
対処するか、いつに新聞社の姿勢にかかって
いる。

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