2002年(平成14年)6月10日号

No.182

銀座一丁目新聞

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お耳を拝借(50)

-なんだか気象用語みたい

芹澤 かずこ

 

 ある朝、目を覚ますと天井がグルグル回っている。起き上がろうとすると気持ちが悪く、頭も重い。一瞬、くも幕下出血の前兆ではないか、と疑った。廊下を這うようにして洗面所に行ったが水しか吐き出せない。一人ではふらついて動けないので、早朝だったが近くの同僚に電話をかけて病院へ連れて行って貰った。
 もともと血圧は低い方なのに190もあり、すぐに頭部の検査に回された。初めて車椅子に乗せられたが、具合が悪くなければあれほど気恥ずかしいものはない。それに前向きに進んでいる時はいいが、スロープを下る時は後ろ向きにされる。健康な時でも乗り物は進行方向を背にすると酔い易いが、あの状態と同じで、特に吐き気が強いときは余計に目が回ってしまう。看護婦さんにゆっくりやって欲しいと言いたいが、気分が悪くて声も出ない。でも、こんな場合でも、もし治ったらこの事を原稿に書いてやろう、なんて思う余裕があったのだから、「転んでもただ起きない」というのはこのことだろう。
CT検査も初めて受けたが、頭を動かさないように固定され、体も毛布みたいなもので包まれて、手と足の部分の2箇所を固定され、なんだか棺おけに入れられるような気分であった。レントゲンの結果は、進行中の出血はないものの、過去に脳梗塞を起こした痕跡が見られるという。
 めまいと吐き気止めの点滴を受け、血圧が150に下がって少し気分が落ち着くと、首筋と両肩が異常に重苦しいのに気がついた。首の付近は、体の中でも特にいろいろな器官が集まっていて、気管・食道・脊髄・脳と全身をつなぐ神経が入り乱れているため、ちょっとしたことでも血液が滞り、うっ血が起こって、肩や首が凝り、放っておくと血圧が上昇することになるという。めまいと吐き気と筋肉をほぐす薬を貰って帰宅した。
 これといった原因がハッキリしないのに、一時的なストレスや加齢とともに血圧が高くなるのを本態性高血圧というらしい。まるで気象用語のようだ。血圧を高いまま放っておくと、動脈硬化になる可能性が非常に高いという。一般的に高血圧と呼ばれるものは160/95以上。境界域高血圧は140〜159/90〜94。正常血圧が140/90未満という。
血圧は休息や安静や睡眠で低くなり、運動や緊張で高くなる。朝は低く、午後は高い傾向にあると、医学の本に書いてあるのに、毎日の血圧が161/96、147/90、172/105、153/111、142/88となかなか安定せず、また200に上がった時点で再診にでかけた。
 血圧の上下が著しいのは、ストレスなど感情的・精神的なものがより多く考えられるので、降圧剤ではなく、緊張を取り除く少量の精神安定剤と以前の脳梗塞のこともあるので、血液をサラサラにする抗血小板剤をしばらく使ってみましょう、ということになった。
 「最近テレビの番組で玉ねぎやニンニクやニラなどが血液をサラサラにするとよく言われていますが、私はそれらの食品が全く食べられないので、血がサラサラではないのでしょうか」と思い切って聞いてみた。「予防にはなるでしょうが、それだけが原因ではありません。体質もありますから…」とドクターは笑っていた。本態性高血圧というのは、ほとんど遺伝によるものらしい。
 往きは200もあったのでタクシーに乗ったが、帰りは車がつかまらないまま駅まで歩き、電車で帰って来たが、何と135まで下がっていた。血圧が高いからと大事を取って殆ど臥せていたが、病院勤めをしている娘によると、血圧が高い時は頭を上げている方がいいのだと言う。薬が変わって何日かすると徐々に血圧も安定してきたので、無理をしない程度に洗濯物を干したり、庭の手入れをしたりと体を動かし始めた。
 ワールドカップが開幕した頃にはすっかり平常の血圧に戻ったので、あまり興奮しすぎてまた血圧が上がっては、と心配しつつも地球儀を傍らにテレビにかじりついている。



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