2010年(平成22年)7月1日号

No.472

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安全地帯(288)

信濃 太郎

あら海や佐渡に横たふ天の川  芭蕉
 

 「銀座俳句道場」を閉じてから3ヶ月たつ。心に隙間ができた感じである。それでも俳句の本は毎日のように手にしている。正岡子規の「俳諧太要」(岩波文庫)に「古来壮大雄渾の句を為す者極めて稀なり」と言い、“壮大雄渾”の句として11句を上げている。大きな句を心がけているので、早速日記帳に書きうつした。その中に芭蕉の句が二句あった。

「あら海や佐渡に横たふ天の川」

「猪も共に吹かるる野分かな」

 前者の句は「奥のほそ道」旅中、出雲崎あたりで得た想を一句にまとめて直江津で発表したものである。よく知られた句である。“荒海“と“天の川”の対比。後者は元禄3年7月ごろの作である。“猪“と”野分”の対比、読む人におのずと雄渾壮大さを感じさせる。いつの日にかこのような句を作ってみたいと願う。

雑誌「偕行」6月号に友人植竹与志雄君の夫人京子さんの句を紹介したら京子さんからお礼の手紙をいただいた。手紙に数々のすばらしい句が綴られていた。

「勝ちに行く男の眉や南州忌」

西郷隆盛は明治10年9月24日、官軍総攻撃の中、城山の岩崎谷で負傷し、別府晋介の介錯で自刃した。優れたリーダーであった。今の日本にほしい人物である。このような句を捧げたい政治家が日本にはいないのがさびしい。

「木瓜の実のごつんとひとつわが晩年」

「寒卵割って朝の友情かな」

「木に倚ればハーモニカ欲し春の雲」

「紫陽花やわれとおどろくわが齢」

 京子さんの感性は鋭い。また己を冷厳に見つめている。その心がそのまま句になっている感じがする。すでに一つの確固たる境地を開いておられる。

 まだ京子さんに返事を出していないが取りあえず「紫陽花に乙女の愛と言う語あり」の句を送りたい。