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愛知県瀬戸市の、猿投山麓にある海上の森は、名古屋市近郊にある最後の広大な里山です。ここは東海地方にしか生息していないシデコブシをはじめとした貴重な生物が見られ、野鳥の種類も多い豊かな自然の宝庫です。現在、21世紀万国博覧会の開催予定地とされ、跡地利用としての都市化計画とともに、この場所の自然環境に影響を与えようとしている問題が起きています。ではどんな所なのか、トピックスなど踏まえてお届けします。(図は図上をクリックすると大きくすることができます) 自然通信(12) 今年は8月末当たりから、海上の森より国道155号線を隔てた所にある、瀬戸市南山口町の山口富士湿地で、シラタマホシクサが開花しはじめました。この植物もシデコブシと同じく、東海地方の湿地のみに生育する貴重なものです。(愛知県指定天然記念物に指定されている豊橋市の葦毛湿原のものは有名です)8月30日には、例年より早く、ここで毎年行なわれるシラタマホシクサ観察会が行なわれたようでした。この場所も、付近を万博のアクセス道路が通り、近くには管理棟が建つ計画が持ち上がっています。もし開発が現状のまま行なわれれば、この湿地だけではなく、近くに他にも貴重な植物が自生する数々の湿地が影響を受ける危険があります。湿地には、水を供給する周りの森が必要で、森を切り開く道路建設は、水の供給を断つ恐れがあるのです。同様な心配が、海上の森のシデコブシ自生湿地にも、名古屋瀬戸道路と若宮八草線が通ることにより起こり得るのです。 9月に入り、17日に物見山を登るコースを行きました。そろそろ、秋の花が数多く出揃う時期です。まず、樹に巻きついたツルニンジンの渋い花に迎えれれました。電線を支えるロープにネックレスのように絡まっているクズは、紫色の香る花を多数に付けています。道の両側はタデの仲間の花で一杯。のしに使われる紅白の水引に似ていることから名付けられたミズヒキや、イヌタデ、ボントクタデなど。昔お腹の薬として煎じたゲンノショウコの花も咲き出し、僅かにヤマジノホトトギスやオミナエシも見られます。水色で、小さいベルのような花を多く付けたツリガネニンジンには、心が和みます。ワレモコウもまだ残っていました。(全てを絵で紹介できないのが残念です。)もうすぐ野菊の仲間も咲き出すでしょう。 その日の帰り夕方近くに、突如!!四つ沢近くの林道の真ん中に飛び出たホンドリスにご対面です。ふさふさしたしっぽを挙げたまま、しばし道の真ん中で身を縮こめていた彼(彼女?)ですが、やがて道の反対側の森へと素早く姿を消しました。普段はマツボックリの実を食べた食痕を見るのみで、「本人」を海上では私は見たことがなかったので、ドキドキしました。普段彼らの活動時間は早朝の筈。恐らく親から巣立ちし、さまよっている若いリスではないかとの、哺乳類に詳しい方の話を、後で聞きまし エナガやシジュウカラたちが、冬に向けてか、大きな群れを形成しつつあるようです。忙しく森を飛び回る可憐な姿は、鳥を見るようになって、何年か経った今も見飽きないものです。20日に来た時、森に入って20分したやはり四つ沢の近くで、何か視線を感じて川の上の垂れ下がったフジのつるを見たら、そこに乗っているカワセミと目が合いました。向こうはやがて飛んでいってしまいましたが。去年の秋・冬までは、篠田池で良く姿を見掛けました。春以降はどこかで繁殖していたのか、あまり見れず、しばらくぶりの顔合わせでした。 森の一部の林道が、脇のススキを除いて、広げられていました。調査のための整備だそうで、何でも道路建設のために100本もの地質ボーリング調査を、森の各所で行なう予定だそうです。これには、道路事業が確定されていない段階であることや、調査による環境破壊も懸念されるため、(ボーリング後、地下水が出たままで放置され、住民の方が困っていたそうです。)12の市民団体が連名で9月30日に調査の中止要望を知事宛に出すそうです。(98年9月30日 中日新聞) 海上の森や、上記の山口富士湿地、その近くの愛知県陶磁資料館周辺には、モンゴリナラと呼ばれるドングリの仲間が自生しています。葉の様子はカシワやミズナラに似ていますが、ドングリは独特の形をしており、早くも9月には稔って落ちてしまいます。瀬戸ではこの葉を柏餅に使っていたそう。分布は、愛知では瀬戸市の他、豊田市から犬山市にかけての丘陵地帯と、新城市のごく一部のみに分布し、県外では岐阜県だけです。中国や朝鮮に分布するものと似ているので、「モンゴリナラ」と呼んでいますが、未だ分類学上では確定されておらず、正式な和名・学名はまだありません。今後の研究成果が待たれます。海上の森が裏山である私の母校の校舎敷地内にも沢山あり、卒業後の大分経った後に訪れてその事実を知り、感激しました。残念なことに今新校舎を建てるため、敷地の一部が造成されているのが外から見えます。また、ここから車で15分程の所にある瀬戸市文化センターの周囲は見事なモンゴリナラ林であったそうですが、何と「わざわざ」伐採し尽くした後に、何種類に及ぶ植樹がなされていました。矢田川の両岸で行なわれた植樹のように、恐らく瀬戸市には自生していないような樹種や、園芸のものも植えられている可能性があります。一体何のための緑化なのか!?と怒りたくなりますが、こうした事例はこの国の各所で見られるのが実状で、情けないことです。その地域固有の植物こそを、まして学術的にも注目されているものなら尚更、積極的に保全するのが「緑を大切に」の本道の筈では、ないでしょうか? トピックス 森を訪れる皆さんへ しのぎやすい秋となり、森に訪れる人が多くなります。春にこのページでも取り上ましたが、残念なことにマナーを守らない人がいるようで、あちこちで放置されたゴミが目立つようになりました。自分が出したゴミは各自で持ち帰って下さるようお願いします。生き物のむやみな採集を行なうのも止めて下さい。 多くの人が自然に親しむようになって、喜ばしい反面、自然や生き物に対するマナーの問題がどこでも起こるようになっています。8・9月にHPを紹介した「トトロのふるさと財団」の森でも、同様な問題が起こっていることを会報で知り、残念に思っています。 物見山を登った日、ゴミを黙々と拾い、背中の篭に集めている御婦人の方にお会いし、頭が下がる思いをしました。自然を壊すのも、守るのも、私たち人間の心掛け次第であることを、心に留めておいて欲しいのです。 シンポジウムのご案内 日本野鳥の会 第2回 蘇れ!里山シンポジウム 日時:1998年11月7日(土)10:00〜17:00
新たな署名活動が始まりました。ご協力お願いします! 日本の伝統的な農業によって維持されてきた里山は、四季折々の変化に富んだ美しい景観を描き、原生自然にはない農耕文化と結びついた独特の生態系が、自然と一体となった文化と心を育み、同時に生物の多様性も保持してきました。 私達は、日本文化の原風景を保つこの里山を、わずか六ヶ月の博覧会や必要性の無いニュータウン構想で潰すのでなく、未来の子供たちや森に住む様々な生き物のため、活用しながら保存する新しい概念の“世界遺産の里山”として登録する事を要望します。 (提出先は環境庁長官宛) 愛知万博から「海上の森」を守るネットワーク
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