2009年(平成21年)1月10日号

No.419

銀座一丁目新聞

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花ある風景(334)

並木 徹

「人情噺―双蝶々雪の子別れ」をみる

 劇団前進座の「人情噺―双蝶々雪の子別れ」を見る(1月7日・東京吉祥寺・前進座劇場)親子の情愛を描いた、三遊亭園朝の人情噺の劇化である。初めての試みとして「上の巻」を噺家・林家正雀師匠の「落語」で語り「中・下の巻」を「お芝居」で見せる。その年の初芝居見物は縁起が良いと昔から言われる。思いも掛けず落語まできけて、贅沢な気分になった。まことに春から縁起が良い。
 まず、舞台正面にしつらえた高座で正雀師匠がいくつかの小話をし、観客を笑わせながら本題へと導く。八百屋長兵衛(藤川矢之輔)の息子・長吉(嵐広也)は手に負えない悪たれであった。継母・お光(河原崎国太郎)がいくら親身になって面倒を見ても父に「継母がいじめる」と告げ口をする。それで夫婦喧嘩になる。見かねた大家から長兵衛は事実を知り長吉の性根を正すため下谷の山崎町の米問屋・山崎屋に奉公に出す―
 ついつい舞台へ吸い込まれてゆく。昨年11月にみた山田洋二監督・中村勘三郎主演のシネマ歌舞伎「人情噺・文七元結」と同じような感動を覚える。歌舞伎も時代とともに変ってゆく。落語フアンも劇場に足を運べば歌舞伎の良さを堪能できるであろう。
 「中の巻」は第一幕が「稲荷町広徳寺門前の場」、第二幕「下谷山崎町玄米問屋山崎屋の場」第三幕「浅草田圃太郎稲荷前」である。長吉が山崎屋の奉公人・長五郎(中嶋宏幸)と共謀して町娘、お種(生島喜五郎)とお市(竹下雅臣)の簪をすり取る。事の次第を小料理屋で松葉屋の女郎・吾妻(国太郎)と会っていた山崎屋の番頭・権九郎(矢之輔)が見てしまう。悪者はどこでも居る。長吉を強請って山崎屋のお内儀・お早(小林祥子)の部屋の箪笥にある二百両を盗んでこいと命じる。吾妻の身請けするお金である。長吉は仮病を使ってお内儀の部屋に入り込みまんまとお金を盗み出す。二人は約束の場所・稲荷前で落ち合うが、権九郎が罪をすべて長吉にかぶせる魂胆と知って長吉は権九郎を殺して蓄電する。二人のやり取りやもみ合うシーンをみていると独特の所作事があって興味深い。
 「下の巻」は第一幕が「本所多田薬師石置場の場」第二幕「だるま横丁八百屋長兵衛内の場」第三幕「元の石置場の場」である。数年後の冬。「落語」ではお客が蕎麦屋から「とき」をきいてそば代をごまかすのだが、お芝居では逆に蕎麦屋がお客に聞かれた「とき」をごまかしてそば代をごまかす。何気ないこのようなシーンも気が利いて面白い。袖乞いの女に長吉が法外なお金を恵む。提灯の明かりで女は長吉と知り、長吉も女が継母のお光と知る。父・長兵衛は長患いで今は湯島から移ってあばら家で寝たままである。石巻で魚屋を開業して儲けたお金だといって50両のお金を差し出す。父は受け取らない。業を煮やした長吉が出てゆこうとすると、「おれが目をつぶった後、おっかあが路頭に迷わないよう置いていってくれ」と頼む。その代り湯島の大根畑の大家から貰った羽織を渡す。父親のせめての形見である。「達者に暮せ」という意味もある。自然と涙がほほを伝わる。最後に捕り方と格闘を演じて捕まる。お芝居はやはり勧善懲悪がよろしいようである。