2008年(平成20年)8月20日号

No.405

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茶説

バラク・オバマ民主党大統領候補に人気の秘密
 

牧念人 悠々

 アメリカの民主党大統領候補、バラク・オバマ上院議員の人気はすごいらしい。オバマは7月24日ベルリンの戦勝記念塔前で20万人の群衆の前で演説した。今から45年前、ジョン・F・ケネディ大統領が西ベルリン市民の前で演説した。ベルリンの壁ができて2年後のことである。集まった市民は10万以上であった。今から21年前、ロナルド・レーガン大統領が西ベルリンのブランデンブルク門前で演説をした。聴衆はわずか2万人だった。聴衆の数だけ取れば、オバマ上院議員の方が圧倒的に多い。英コラムニスト・ジェフリー・スミスさんの言葉をかりると、「訪問先ではまるで既に大統領に選ばれたかのように礼が尽くされた。各国の王や大統領、首相がまるで臣下が忠節を誓うかの如く先を争って彼を迎え、欧州では驚くばかりの大勢の民衆が歓迎した」ということになる(8月4日産経新聞「正論」)。
 問題は群衆の数ではない。そこでそれぞれの大統領が、どんな発言をし、どのように実現したかと言うことである。それが歴史にはっきりと証明されている。ケネディはベルリンの壁ができて不安がる西ドイツ市民を前にして「今日の自由な世界に於いて、最も誇らしく言うことができる言葉は『イッヒ・ピン・アイン・ベルリナー(私はベルリン市民だ)』彼らは大いに勇気づけられた(「ニューズウィーク」日本版・8/6)。ケネディはソ連がキューバにミサイル基地を作ろうとした時、海上封鎖して断固、ソ連の船をキューバに入るのを阻止した。
 レーガン大統領は、その前夜その訪問に抗議して投石デモを受けながらも「ミスター・ゴルバチョフ、この門を開けたまえ。この壁を壊した前』と呼びかけた。その2年後にベルリンの壁は崩れた。レーガンの先見の明があったと言うことである(前掲「ニューズウィーク」)。その後レーガン大統領はゴルバチョフとアイスランドのレイキャビックで会談、冷戦終結へ導いた。二人の大統領は自分の発言したことを見事実現して見せたのである。
 政治家にとって演説が上手いかどうかは問題となる。日本でははるかに昔に「雄弁家」という言葉は死語になった。テレビのせいか言葉が軽くなった。気の利いたアドリブでもはければよしとする風潮である。国会での政治家の演説を聞くがよい。すべてが原稿の棒読みである。演説とは何か、言葉によって人を感動させる、ひきつける、場合によっては味方にさせる。あるいはファンにさせる力を持つ。言葉にはその人の哲学、人格、機智、ユーモアなどすべてが表現される。その意味ではオバマは演説がうまい。民主党の大統領候補者選びで、接戦ながらヒラリー・クリントンに勝った最大の要因はその雄弁の力による。オバマはベルリンでいった。「確かに、アメリカとヨーロッパには異なる部分があるが、しかし地球市民としての責務から私たちは結束を続ける」。「この演説はまさにドラマであった」とジェフリー・スミスさんはいう。日本にもこの「ドラマのような演説」がほしい。日本で演説が衰退した最大の理由は政治家の言論軽視である。言ったことを必ず実行する、という気概がいつの間にか乏しくなったと政治評論家の岩見隆夫さんは指摘する。
 11月アメリカ大統領として登場するであろうバラク・オバマにもいえる。自分の発言に責任を持ち実行することである。さらに言えば、激動する世界の変化に対応していく能力が強く問われる。選ばれし者,汝の前途に幸いあれ。

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