2008年(平成20年)8月20日号

No.405

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山と私

(47)
国分 リン

スポニチ登山学校最後の山「立山三山・剣岳」−

 尾形校長の山行最後の挨拶「1996年に開校したスポニチ登山学校もこの山行で最後になり、無事に終わることが出来ました。皆様は山から素晴しい「気」を頂き、より辛いことに毅然と立ち向かい、山を愛し、人を愛し、大いなる山々の日々から輝きを貰ってください。」満足から賑やかだった車内が、一瞬に静まり、割れんばかりの拍手が起こり、「仰げば尊し」の歌声に替わった。
 「スポニチ登山学校・尾形先生ありがとう!」

 1964年「立山黒部アルペンルート」大観光ルートの完成で、室堂へ2時間余
で到着。(団体扱で特別)7月26日残雪の多さに驚く。雨が少ないので雪が溶けにくいと、教えられる。準備を整え一の越へ、とにかく人の混雑に驚く。下山の人が「上は行列ですよ。」どうやら中学校行事の登山で子供達も多く、渋滞。周りはガスの中ひたすら登る。岩のゴロゴロを登り一の越へ11時に到着。
展望は無く、雄山を目指し尾形先生の足跡をたどると、渋滞から抜けた安全な登りをひたすら登る。頂上は人で混雑、とりあえず昼食を摂り、喧騒から逃れるように大汝山へ、この辺りからは静かになり、前回の稜線漫歩気分と違い、ガスの中、ひたすら歩き別山尾根へ、ここからの「剣岳」も姿見えず。ふと下を見ると剣沢が雪で真っ白の中に、赤、黄色の色とりどりのテン場が見えた。この頃から日差しが出て、雪の上を明るい気分になり、剣沢小屋15時半到着。

 7月27日「剣岳」登頂日、お弁当を持ち剣山荘を目指し5時出発、朝焼けで雪はピンクに染まっている。雪渓を登り新しい剣山荘に荷物をデポし、いよいよ
「剣岳」へ登山開始。周囲はガスの中、一服剣岳に着き、「休憩です。」なぜか剣岳はお天気の良い時に二度も登っているし、もう登らなくていいと、心の中の葛藤が始まった。苦しい登りと、体調管理の悪さから、前剣岳で「先生、私ここで待っていたい。」「ここまで登ったらもう少しだよ。」「でも今日はもうここに居たい。」心が前向きでなく、今反省すると、風邪を押して登った人も、ぎりぎりの体力で登った人もいたのに、でもここで待つ時間は最高の時でした。雨具のうえに尾形先生のツエルトに包まると暖かい。景色も何も見えない30分間はまどろみ、「剣岳」を登った夢にびっくりして起きた。前剣岳の周囲に咲く高山植物・イワカガミ・チングルマ・トウヤクリンドウをゆっくり心ゆくまでカメラに収め、そのころは剣岳の頂上も姿を現し、皆の喜ぶ姿を想像し、良かったと独り言を言いながら待つ。ヘリコプターが何度も旋回している。遭難でないことを祈る。
 3時間ほど待つと鈴木先生を先頭に11期生が意気揚々と卒業試験合格と戻り、皆元気に先に下山。岩崎先生と12期生、吉田先生と女性最年長69歳の内野さんが元気に姿を現した。「登れたー!スポニチ登山学校と吉田先生のお陰よ。」本当に良かった。尾形先生のグループが戻り、カメラード上野さん、丸山さんご夫妻に、やったねとエールを送った。11時に昼食、朝喉を通らなかったご飯がこんなに美味しかったのは、何故なのか不思議であった。
 下山に入り、難所を無事に降りると急に雷が鳴り出した。雨も降り出し、急ぎ雨具を着け足早に下る。雨足は強くなり、光ってから雷鳴は遅いので遠い。でも尾形先生は「山での雷は非常に怖いですよ。でも稜線で無いので大丈夫です。雷のおまけまでサービスとは。」でも剣岳から一番近い剣山荘が宿で幸運であった。ずぶ濡れで宿に飛び込んだ。14時、でも夕刻のような暗さであった。
 ひどい雨は降り続いた。

 7月28日一晩中降り続いた雨は、激しさを増して未だ降り続いているが、とにかく準備をして出発。雷もまだ鳴り響いている。今日の剣岳はご機嫌が悪く、とても登らしてくれないだろう。私達はラッキーで、下山である。道も水浸しで沢を歩いている状態ながら、一時間ほどで診療所に着き休憩し、夢中で雪渓の道を剣御前小屋まで登り、小屋の情報で、増水すると雷鳥沢の橋が渡れなくなるので、急いで下る。無事雷鳥沢の橋を渡る頃には景色も見え出し、雷鳥平では雨も止んだ。ゆっくり休憩をして気を取り直して地獄谷経由で室堂へ、驚いたことに階段が雪に覆われ、観光客は簡単に入ることは出来ない。登りきったみくりが池も前面雪に覆われていた。この夏の異常気象で自然も変化している。室堂で台湾人らしい観光客達はこの雪を喜ぶのかななど考えた。雨具を取り、ストレッチをしてこの山行が終わった。尾形先生が鬼の形相から優しい顔に変わった。雷鳴の中、23人を無事室堂にと必死だったのだろう。
 「気が向かないときは無理をしないのが正解ですよ。」吉田先生の優しい一言、負け惜しみでなく私も後悔はしない。あの前剣岳で3時間余の景色の移ろいを知っているのは、私一人なのだから。

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