1998年(平成10年)6月20日(旬刊)

No.43

銀座一丁目新聞

 

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海上の森
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 愛知県瀬戸市の、猿投山麓にある 海上の森は、名古屋市近郊にある最後の広大な里山です。ここは東海地方にしか生息していないシデコブシをはじめとした貴重な生物が見られ、野鳥の種類も多い豊かな自然の宝庫です。現在、21世紀万国博覧会の開催予定地とされ、跡地利用としての都市化計画とともに、この場所の自然環境に影響を与えようとしている問題が起きています。ではどんな所なのか、トピックスなど踏まえてお届けします。(図は図上をクリックすると大きくすることができます)

自然通信(8)
初夏の海上の森

牧野 紀子(愛知県)

 4月の終わり頃、南の国から子育てのため渡ってきた夏鳥達で森は活気付きます。高地へ移動中のコルリが囀り、樹上ではこの森で営巣するオオルリが歌います。どちらも夏の青い鳥。ものみ台へ行く途中では、サンショウクイが虫を食べた後、私の方を何だろう、というふうに見ておりました。この鳥は、数が減少していると言われています。海上では何羽か見られ、繁殖もしていると思われます。センダイムシクイが「鶴千代君〜」と鳴きながら小さな姿を現しました。エナガは早くも3羽の子供を連れています。

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オオルリ(雄)

サンショウクイ

 5月は雨の多い月でした。花暦も相変わらず例年より早く、エゴノキはあっという間に終わり、今年はとうとうホオノキの大きい花も見逃してしまいました。23、24日に訪れた時は、6月に咲くはずのヤマボウシやガンピ、ノアザミが、湿地ではもはやトウカイコモウセンゴケのピンクの花が見られました。篠田池では初夏にふさわしい鳥ホトトギスの「特許許可局」という声が響きます。この時期は、キイチゴの仲間各種が実を付け、その味覚を楽しむこともできます。

 さて、海上の森の鳥類の種類数は121種(1992.1-1996.12日本自然保護協会1997より)確認されており、その後も数種新たに見つかっています。四季を通じてなぜこれほど多くの野鳥たちが見られるのでしょう?それは森の多様な環境に理由がありそうです。(下図参照)

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森の多様な環境

 私達が住まいを考える時、衣食に適した場を考えるように、鳥たちも森で様々な生活空間や、種毎に適した場を選んでいるようです。ウグイスが好む低木や薮は、鳥たちが天敵である猛禽類などから逃げ込むのに適した所でもあります。枯れ木には、キツツキの仲間が餌を求めて来ます。樹上ではオオルリがソングポストとして囀っているのをよく目にする一方、キビタキは声はすれど黄とオレンジのその姿をなかなか目にすることが出来ません。それもそのはず、彼らは程よく茂り、空間もある広葉樹(特に落葉樹)の中を好むためで、緑の中に姿が溶け込んでしまい見つけにくいのです。サンコウチョウはややうっそうとした暗い林内を好み、水辺は鳥の水飲み・水浴び場になり、カワセミも魚を狙いに来ます。餌捜しの他にも巣作りなど、天然林が木の種類など多様な構成をしているほど、色々な生活様式の様々な種類の野鳥たちが住むことが出来、ひいてはそれを食べる猛禽や動物も住めることになるのです。(図とともに、由井 正敏著「森の野鳥」《自然と友だちになる方法2》学研 約1,200円、を参考にしました。皆さんも一度読んで見てください。)

トピックス

東京イベント「海上の森写真展」が終了しました。

 このたび、5月30日をもちまして、「海上の森写真展」が終わりました。海上の森に住む野鳥たちや、生物たちの写真、森の風景写真とともに、森で見つけたカヤネズミの巣の跡がカヤネズミのぬいぐるみとともに展示されていたりするのが目を引きました。

 初日の5月6日に行われたミニイベント、「海上の森と日本の里山を語る」では、ケビン・ショートさん、鷲谷いづみさん、地元で定例観察会を行っている北岡由美子さんを交えての講演や対談が行われました。まず、北岡さんのスライドによる海上の森の説明と、2005年国際博覧会の会場予定地となっていること、開催計画では「人と自然の共生」を唄っているが生物が少ない人工林を残し、豊かな雑木林を伐採することになっている。跡地利用の住宅地や幹線道路の計画が先行していて本当に人と自然の共生を目指す万博ができるのか。開催予定地の変更、計画の見直しを強く求めたいとのお話があり、次いでケビンさんが、自分が過ごした、日本での里山にあたるニュージャージーのカントリーサイドでの経験を踏まえ、子供は変化に富んだ里山自然の中で遊びながら大自然の冒険を疑似体験し、原生自然への憧れを育てていくものであること、人間にとっては身近な里山自然も原生自然同様大切であると話されました。鷲谷さんは、生物多様性は遺伝子、種・個体群、生態系・生育/生育場所、景観の各階層で保全されなければならず、最も上位に位置する景観の中でも里山は生物にとって多様な生育/生育場所が組み合わされていて保全すべき重要な景観であること、地球規模での多様性維持は地域における固有性の尊重によって成り立つもので、非常に特徴的な里山である海上の森を守ることの意義は大きい、と話されました。更に海上の森など里山をモデル(手本)として残し、瀬戸の陶土採掘跡などに里山の景観をコピーして万博会場とする「モデル・アンド・コピー」の提案や、万博が人と自然の共生を理念とするのならば、人だけでなく自然にも利益がなければならないとのお話は印象的でした。

 対談では、海上の森は世界遺産として残す価値がある誇るべき自然(!)であること、世界にも酪農やぶどう畑を中心としたカントリーサイドがあり、里山と同じように自然と人の長い共生の歴史がある。万博ではそうした世界の里山を紹介したら日本に対する自然破壊のイメージが大きく変わるだろう(ケビンさん)、海上の森は里山文化を象徴する場所であり、万博を逆に利用して世界にアピールしたい。そのために「自然」というより具体的に「里山」をテーマにして欲しい(北岡さん)、里山と人との関わりを再構築するための里山ネットワークを作る必要性(鷲谷さん)、里山は狭い意味ではコナラ、クヌギの薪炭林だが広い意味では鷲谷先生の言われる多様な土地利用の組み合わせ(水田・畦・水路・ため池など)としての里山景観である。(ケビンさん)などなど・・・海上の森と里山を知る上で、大変内容の深いものとなりました。会場参加者の方からも様々な意見や質問が出されました。写真展や、ミニイベントに参加された皆さん、どうも有り難うございました。また運営に携わった日本野鳥の会ボランテイアの皆さん、どうもお疲れ様でした。


署名活動のご協力、どうも有り難うございました!

 「二十一世紀地球EXPO『愛知万博』の開催地変更を要望する署名(愛知県瀬戸市海上の森以外に変更を!)」を去年より行っておりましたが、おかげをもちまして、34,817名分が日本全国各地より寄せられ、5月26日に通産省へ提出する運びとなりました。同時にこの日、各省庁へ海上の森の保全を求める要望書を提出してきました。万博がアセス新法の精神7を先取りして行っているのに対し、新住や道路の跡地利用の計画手続が先行していて、同じ予定地でありながら、事業は別であると、愛知県と建設省は実際には見なしているようです。

 署名にご協力下さいました皆様、本当にどうも有り難うございました。6月7日には万博の跡地利用としての都市計画(新住・名古屋瀬戸道路)の公聴会が開かれるなど、依然厳しい状況が続きますが、森を守りたいと思う皆様の様々な働きが少しでも実ることを願っています。

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