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フランス映画祭横浜’98上映作品1 「肉体の学校」 大竹 洋子
1998年作品/カラー/105分 三島由紀夫の同名の小説を原作としている。これまでにもドストエフスキーやヘンリー・ジェイムズなど、文学作品の映像化に取り組んできたブノワ・ジャコ監督は、かなり忠実に三島文学の世界を再現させた。原作が日本の上流階級と呼ばれる人々を描き出して、むしろ一般大衆の感覚とはかけ離れた存在の主人公が、ここではごく普通の人間としてそのまま通用しているのが面白い。 パリの高級ブティックで働くドミニクは、裕福な独身生活を送っている。夫とはだいぶ前に別れた。ある日の仕事帰り。女友だちと立ち寄ったゲイバーで、ドミニクは美しい若者カンタンに目まいがするほどの魅力を覚えた。カンタンも年上のドミニクに心を動かし、二人は恋におちる。ドミニクは、男にも女にも体を売っては収入を得ているカンタンの仕事をやめさせ、彼を自分の家に住まわせる。二人の共同生活が始まった。やがて、カンタンはドミニクの友人の金持ちの娘と知りあい、二人は結婚するという。ドミニクはカンタンの過去を洗い始める――。 ドミニクを演じるのは、フランス映画のトップ女優イザベル・ユペールである。あまり化粧をしない顔にシンプルなドレスとアクセサリーが、ユペールの知的な美しさを際立たせる。思いがけず若い男を愛してしまったインテリ女性のいらだつ心を、非常にうまく演じて見事である。カンタン役のヴァンサン・マルチネスは、この作品がデビューの新人だが、粗野で幼稚で暴力的なのに、時にはっとするような寂しさと優しさを体中から醸しだす。 結局、女は男を追い出し、また元の気ままな生活にもどる。ここまでは原作通りだが、映画は次のようなシーンを加える。何年か後、新しいボーイフレンドと車で町に出たドミニクは、幼い女の子をつれたカンタンと再会する。カンタンは金持ちの娘と別れ、べつな女性と結婚したらしい。妻の父親が経営するホテルで働いているとカンタンは言い、この子の名前を知りたくないかとドミニクに訊ねる。ドミニクは首を横にふり、カンタンと幼女はメトロの階段をおりてゆく。ドミニクは男の車に乗る。 このラストシーンは余韻を残す。私は「シェルブールの雨傘」を思い出した。女の子の名はドミニクだったのだろうか。ブノワ・ジャコ監督は「シングル・ガール」(95)でも、エピローグにヒロインの数年後を描いた。ヴィルジニー・ルドワイヤンが演ずるホテルのルームサーヴィス係の少女が、子どもを一人で育てながら生きてゆく姿をみせて、作品をきりっと終わらせていた。カンタンにも、どうやら娘と二人暮らしの風情があった。町の片隅で生きている人々への、監督の眼差しが感じられる。 公開未定。問い合せはユニフランス・フィルム(03-5261-9309)へ。 このページについてのお問い合わせは次の宛先までお願いします。 |