2006年(平成18年)10月1日号

No.337

銀座一丁目新聞

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山と私

(27)
国分 リン

−急峻な岩峰・北穂高岳−

 ネパールから戻り、山の友Yさんから「凍」(山野井泰史・妙子夫妻の壮絶なギャチュンカン登頂の物語)を借りゴーキョ・ピークからみえた白い大きな峰を身近に感じながら、夢中で読んだ。どきどきしたり、妙子さんの凄い精神力を応援したり、平常心に感心した。クライムダウン(下降)の怖さや、凍傷の恐ろしさに身震いした。凍傷で全部の指を切断してもまた山へ登る。山は魔力があるのか?

 昨年の夏山メインは北穂高から涸沢岳を通り穂高小屋経由で涸沢ヒュッテへ戻り、翌日はパノラマコースを徳沢から上高地に戻った。
 穂高は2年前の9月にパノラマコースから涸沢に入り、翌日雨の中奥穂高岳から前穂高岳を越えて紀美子平から重太郎新道を超えた岳沢へ下るコースを歩いた。思えばここも亡き友KFさんと同行した。
 8月5日(金)晴れ 寝心地の良さに予定より30分遅れで同行する長野の富士見野在住のHFさん宅を出発。沢渡でタクシーに乗り換え上高地へ向かうが、また事故渋滞で予定より1時間も遅れ8時半に上高地到着した。まだひっそりとしている。明神から徳沢を早足で歩き、11時に横尾へ到着。横尾山荘はすっかり以前とは異なり建替えされ、立派になっていて大勢の登山客が休憩をしている。ここは槍と穂高の分岐である。昼食を済ませ11時半に横尾大橋を渡り、涸沢を目指す。大きな岸壁は屏風岩と聞き仰ぎ見て進むとまもなく吊橋の本谷橋を渡る。この先は急な登りが続く。汗が滴り落ち暑い。しばらく樹林帯の中ゆっくり1歩ずつ進む。やっと涸沢カールの雪渓が現れ、涸沢ヒュッテが見えてきた。雪渓の上を渡り午後3時半にヒュッテ到着。
 テラスが設けられ穂高の景色をゆっくり十分楽しんでいただこうとの山小屋の計らいらしい。天気も好く360度の展望である。前穂高から吊尾根・奥穂・涸沢岳・北穂の穂高連峰の揃い踏みと残雪の涸沢カールの全景は感動である。飽きることなくしばらく呆然と見続けた。

 8月6日(土)晴れ 穂高のモルゲンロートを期待し早起きしテラスへでたが、霧が立ち込め期待が大きいだけ残念である。 今日のコースは北穂高岳を登り涸沢岳から穂高山荘経由でこのヒュッテへ戻ろうと決めた。これなら荷物をデポ出来るので少しでも身軽に登ることになる。
 良しと掛け声をかけ6時に出発。カールの雪渓を渡り山岳救助隊の登山者への注意を受けて右側の北穂高への登山道を歩き出す。しっかりした石段で安心する。上へ登るに従い明るくなり、涸沢カールが広がり雪の白と緑のコントラストがとてもいい。大きな岩を2ヶ所登るとハイマツ帯にはいる。暫く登るとゴーロと呼ばれる大きな岩がゴロゴロした斜面に出た。長くはなくまたハイマツ帯を登るとお花畑が斜面に拡がった。イワキキョウ・ヤハズハハコ・四葉シオガマなど群落で咲き乱れていて撮影タイムをした。
 ジグザグに登って南稜取付き地点。先ずは鎖を使って中間部へ、続いて数メートルの梯子を登りきると南稜へ飛び出た。まだ半分である。南稜の登りはきついが荷物が軽いのでがんばれる。コヤマ岩の左を通過、岩場を登り続ける。登山道は狭い尾根道で慎重に歩くと短い梯子を登りしばらくすると3000メートルの南稜のテラスへ着いた。(夢中だったので後で調べたらわかる。)眼の前に北穂の頂上が見え、早くおいでと呼んでいる。慎重に岩場を登る。穂高連峰縦走路へ着く。分岐を右に曲がって南峰の真下を巻き下りすぐに山頂を目指しての最後の登りになり到着。9時50分3106メートル北穂高岳頂上、登れた。登れた。
 槍ヶ岳はガスが立ち込め見えず。早朝は良く見えたらしい。滝谷や涸沢は満足の眺めである。Fさん持参の羊羹とお抹茶にのどを潤し疲れがとれる。北穂高小屋は例えが悪いが本当の山小屋の観がある。テラスがありここへ泊まれば凄い写真が撮れるだろうな、だからここまで登り泊まりたいとF氏が言っていたのを思い出す。大キレットの眺めは凄く素晴らしい。
 10時30分に涸沢岳を目指して縦走路を出発。滝谷の岩場を登る若者の姿に感動を覚えながら、必死に岩と闘い前進する。ルートはしっかりペンキマークがあり慎重に鎖や3点支持で登れば大丈夫である。岩ごろの涸沢岳に12時半到着3110メートル地点である。Fさんの羊羹と抹茶に舌鼓をうっていると栃木のご夫婦が民謡を見事に歌い上げ和ませる。お礼に抹茶をご馳走する。こうゆう繋がりは楽しい。穂高岳山荘からザイテングラードを下ると雷が遠く聞え雨もぽつぽつ落ちてきたので急ぎ足で歩く。途中の分岐でカールを一周する道を採り歩き出すと雨も止みとても快適である。ショウジョウバカマやシナノキンバイが雪に映えて美しい。周りの景色も姿を表しメルヘンの世界に浸っているようである。3時に涸沢ヒュッテに到着。
 テラスで乾杯。これが達成感と同時に至福のときである。

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