2006年(平成18年)4月10日号

No.320

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花ある風景(234)

並木 徹

物神賛仰の語り物、説教節

  珍しく説経節を聞いた。暗くなった客席の通路から漂泊の説経師たちが物語りを唱えながら舞台へ上がる。「ただいま これより語り申す 御物語 国を申さば丹後の国 金焼地蔵の御本地を・・・」。前進座公演「さんしょう太夫」―説経節よりーの幕開けである(3月25日・前進座劇場)。
 説教節の祖先は平家琵琶であり、その子供は浄瑠璃である。この語り芸能から近世には浪花節が生まれる。日本人の体質に合っているのか説教節は心に響いた。「さんしょう太夫」はづし王(杉本雅代)とあんじゅ姫(小林祥子)の物語である。母・玉木(浜名実貴)と乳母のうば竹(前園恵子)と共に無実の罪で筑紫に流された父・奥州五十四郡の太守で岩城判官正氏を訪ねる旅の途中、人買いのためにだまされて別々の船に乗せられてづし王とあんじゅ姫は丹後の由良の「さんしょう太夫」(山崎竜之介)の元へ、づし王12歳、あんじゅ姫14歳であった。玉木は佐渡へ、うば竹は途中で入水する。だまされたと知って玉木は南に遠ざかる船の二人に向って声をあげる。「これが別れだよ。あんじゅは守り本尊の地蔵様を大切におし、づし王はお父様の下さった護り刀を大切におし。どうぞ二人がはなれぬように」。子供たちは「お母様、お母様」と叫ぶだけ。一瞬、北朝鮮による拉致事件を思い浮かべる。家族の幸せを奪いさったのは同じである。
 姉はしのぶ草、弟は忘れ草と名付けられ、二人は奴婢として芝刈りと潮汲みをやらせられる。逃走を企だてたと二人は額に焼印を押されるが、お地蔵様のおかげで傷跡は消えてなくなる。づし王は姉の機転で太夫のもとから抜け出し、中山の国分寺の聖(志村智雄)にも助けられ都に出て出世する。奥州の本領のほか丹後五郡も領する。さんしょう太夫を鋸引きの極刑に処する。森鴎外の本には「鋸の刑」のくだりはないが、舞鶴の図書館には絵本だけでも340種類からのものが集めれているという。姉はすでに死んでいたものの佐渡で母と涙の対面を果たす。
 終りに説経師たちが現れる。「うれしきにも かなしきにも 先立つものは涙なり さてそれよりもづし王殿・・・姉の菩提とむらわんと・・・」
 と語りつつ去ってゆく・・・お坊さんの説経を聞きなれているせいか、説経節は素直に体に染み込んでゆく。

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