2005年(平成17年)12月1日号

No.307

銀座一丁目新聞

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茶説

犯罪被害者の匿名は間違いである

牧念人 悠々

 被害者を実名・匿名のどちらかで発表するかの判断は警察にゆだねることになるらしい。今年4月に施行された「犯罪被害者基本法」にもとづいて策定される「基本計画」の中に「実名・匿名発表は警察判断」と盛り込まれ、12月中に閣議決定されるという。それでよいのか疑問を持つ。「真実の追及」がおろそかにされ、ひいては民主社会の崩壊を招きかねないと知るべきである。
 確かに基本法にいう「すべての犯罪被害者等は個人の尊厳が重んぜられその尊厳にふさわしい処遇を保障される権利を有する」は正しい。バランスの問題である。被害者個人の尊厳と民主社会を支える「真実追及」の要請を比較考量すと後者に軍配を上げざる得ない。具体的に話を進める。96年、JR池袋駅のホームで男に暴行されて死亡した立教大生小林悟さんの父小林邦三郎さんはいう。「報道に求めるのは真実の追究であり、解明されないまま終わるのは怖い.警察の確認が不十分なまま報道されているのが現状で、それを調査し正してくれるのもマスコミだ」97年に息子の隼君を交通事故で失った片山徒有さんは語る。「息子のケースでは、報道で被害者の存在を社会に認めて貰った.人のこころに訴えるのは実名報道.報道各社に任せ、問題があればメディア設置している第三者期間などで話し合えばよいのではないか」(何れも毎日新聞11月22日より)。新聞協会の見解はどうか。「事件・事故を正確に客観的に取材・報道するために実名は欠かせない。警察側に発表の判断主体を委ねレ場警察の恣意的な運用を招き、国民の知る権利を脅かすことになりかねない」実名の重みを多くの人が理解していない。新聞記事は、だれが(WHO)何を(WHAT)いつ(WHEN)どこで(WHERE)なぜ(WHY)いかに(HOW)の5Wプラス1Hは欠かせない。「WHO」がなければニュースにならない。事実確認の方法である。匿名は事実をあいまいにする。事件の解決を遅らせる場合もある。そこなわれるものが実名にした場合に蒙るデメリットより多い。
 もとをただせば5W+1Hはノーベル賞を受賞した海洋詩人、ジョセフ・ルドヤード・キャプリングの詩である。「私は6人の正直な召使を持っている.彼らはいつも私の知りたいことを教えてくれる.彼らの名は「何を」「なぜ」「いつ」「どうして」「どこで」そして「だれ」と言う人たちである(「扇谷正造著「現代ビジネス金言集」・PHP研究所刊)扇谷さんはこれは「生活の文法」であるとさえ言っている。こんな大切な生活の文法を壊すつもか。よくよく考えてほしい。

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