2005年(平成17年)12月1日号

No.307

銀座一丁目新聞

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自省抄(48)

池上三重子

   10月27日(旧暦9月25日)木曜日 曇りのち晴

 今昼前、広松和明さんの葬儀。一昨日、初子さんが京都みやげ「おたべ」を届けにきて訃報を知らせてくれた。
 隆昭は昨日知ったらしい。ご仏前を私のも持っていく所存で訪ねてくれたのだ。「弔電は昨日打った、お金はもっとらんけん」と私。彼はインフルエンザの予防注射の件を千鶴さんに頼まれたそうな。「せん! 毎年しとらん」と甚だ突慳貧な私の口調は、和明さんの死にかなりの衝撃を受けている証か。
 広松和明さんは小学校の教え子の一人。高校を出て土木業界の県職に就き、何カ所かの所長を兼任、思い通り望みどおりの地位を得ての示寂。めでたい生涯といえようか。
 彼は本当に倖せな一生を送った。
 内心は脾弱な甘えん坊の寂しがりや。威張りたがりやの外貌の裏の小心小胆は周辺近々の級友などか知るのみか。彼は外貌と圧しの強さと、ある種の情の脆さを武器に社会的地位をわがものとすることができた。
 伴侶道子さんの内助外助の効きいてこそ、彼の地位はゆるがなかったと思う。無論、彼の力あってのことといえるが、彼には過ぎたと私の思う伴侶道子さんである。
 妻女道子さんに渡さず給料は自分の懐中にした点は怪しからぬ事、と私は言ったものだが、道子さんは県立病院の総婦長をつとめ上げた後、私立の大病院の総婦長の任にあたる有能な看護師だから、その辺の彼の胸算用がわかるような気もする。
 五年生六年生と持ち上がり担当だったその五年生の初め、私が何かで注意した。とたん彼はプーッと頬を膨らませて不満をあらわにした。私は席に立たせた。彼は顔面を紅潮させ、しかし俯いて立っていた。その間一分は六十秒。以来、彼は甘えん坊の利かん気の、外突っ張りの内脆弱をもろに発揮しつつ普通の生徒になった。四年生のとき、担任の先生が教えきらんと組替えという事件があったとかで、勝手気侭な癖がついていたようだ。
 スポーツ万能型というか後年、国体の陸上競技の選手にもなったようである。
 私は道子さん宛に弔電を送った。  
  悲しみに耐えず
  悲しみに耐えず
  受け持ち心は母ごころ
  知るや知らずや餓鬼大将
  カズ坊よ! カズ坊よ!
  あなたは倖せでした
  すてきなまことに素敵な伴侶の
  道子さんに恵まれ
  やりたい仕事の土木業を与えられ
  ふたりの息子ごを得て
  功成り名遂げた一城の主!
  甘えん坊の寂しがりやの
  一期の豊かな生を讃えます
 合掌

 今日は恒例の園の誕生会です。
 鵲の声は何処へ? 今、雀がチュンチュク鳴いています。烏の早起き雀の寝坊とか、烏はカアカアガアガア……濁音は少鳥? 澄音が熟鳥?
 和明さんが逝き今日は葬礼。隆昭は参列したことでしょう。小欲知足で和明さんとまったく対象的な性格ながら懐はふかいらしく、和明さんを好きでしたよ。
  逆縁とふ詞沁むかな広松和明
  教へ子彼の野辺の時ぞも
  教え子の絆七十年広松和明
  『功成り名遂げて』を寿(ほ)ぎ申すべし
 そうそう、今日はお母さんが洗髪をなさらぬ「お天満宮さんの日」です。菅原道真に災厄のおそった日付けという思い込みがおありだったのですね。
 お母さんは無学ながら聡明だった。生家大藪家の血脈は女ではお母さんとキノ伯母さんに引き継がれていたのではないでしょうか。
 お母さんの娘に生まれて嘉かったです。でも不肖はお恕しを請わねばなりません。
 ごめんなさいお母さん!

  10月30日(旧暦9月28日)日曜日 曇りのち晴

 妙子先生来室。
 千代子さん付添いありがとう!
 先生はお疲れもなく、ふっくらと!
 お話も従来にほぼ変りなし!
 すべてに「!」よ。本当にありがたい事だ。若奥さんが背を支えながらの歩行ではあるけれど、すっすっと前進可能。
一人では伝い歩きと若奥さん・千代子さんの言。めでたし、めでたし。
 脳梗塞と聞き半身不随と思い決めていた。
 先生の場合は自分でおっしゃるには、歩行だけがヨタヨタ。ヨタヨタだろうと日常生活にその程度の障害は一般論からすれば上の部。ちょっと語尾に呂律の変(?)を感じるけけど、会話に何の支障もないのだから、これも上の部。歩行訓練を重ねれば外の散策も難しいことではなかろう。本当に嬉しくてならぬ。
 ご本人は衝撃であられたに違いないが、私は安堵の巻よ。よかったなあ。
 お母さん、お母さんの仰言る「妙しゃん」が来てくださいましたよ。
 今夜も夢見にお待ちします。



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